THEワンダー!さっぽろテレビ塔

実を言うと、その場所は眺めるだけのつもりだった。だが後に振り返って、旅の中で一番心に残る場所となった。
これは夫婦で初めて訪れた北海道での、とある冬の夜の観光名所にまつわる思い出話だ。

二○十九年十一月中旬、雪の残る大通公園を観光し終えた私達は、夕食をどこで食べようかと思っていた矢先、本格的な猛吹雪に見舞われてしまった。北海道に来てまだ数日だが、これで吹雪は二度目になる。北海道の洗礼に「さすが、いや、これこそ北海道だ!」と、心の中で感嘆の声をあげつつ、慌てて駆け込んだのが〈さっぽろテレビ塔〉だった。

最初入り口が分からず、どこから入るのだろうか?と、半ばスリリングな気持ちでテレビ塔の足元をさまようことしばし。
遂に入り口とテレ地下グルメコートの看板を見つけたものの、更なる期待を込めて、歯の根をガチガチ鳴らしながら私達はエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターが到着した先のスカイラウンジで「ここ良さそうだね」と言いながら、凍える身体は『洋食レストランNEW SANKO』へと自然と吸い込まれた。そこは北海道の老舗の洋食屋さんだった。

照明を落としたシックで趣ある店内に一歩足を踏み込めば、大通公園から札幌の街までが一望できるパノラマビューが広がっていた。
『大通公園』は、あの北海道が舞台の某探偵映画のロケ地でもある。映画のファンである私達は、大通公園のちょうど真ん中あたりを見渡せる席に通される幸運に恵まれ、思わず舞い上がってしまった。

メニューは北海道名物がずらり。丁寧で優しい店員さんに教えて貰いながら、名物料理を堪能すべくスープカレーやチーズフォンデュなどを注文した。どの料理も凝っていて彩りも美しく文句なしに美味しい。洗練されているのにどこか懐かしい気持ちにもさせてくれる、そんな美味なる名店の味だった。
食後に北海道のご当地ドリンクであるというリボンナポリンを飲みながら、雪の夜の大通公園を眺めて会話を楽しんだ。目にも口にもとても甘くてロマンチックだ。つい時間を忘れてしまった。

まばゆく輝く色とりどりの街の灯りが、雪の白に淡く滲んでいる様が言いようもなく美しかった。陳腐かもしれないが「宝石箱みたい」だと言う表現は、こんな景色のことを言うのだろうと心から思えた。

身も心も胃も温まった私達は展望台へ向かい、再度夜景を目と心とスマートフォンに焼き付けた。展望台にはテレビ父さん神社やお土産売り場もあり、つい長居してしまう。

私達は時計台やラベンダー畑といった北海道名物で彩られた、北海道という文字を象ったマグネットを購入した。年号入りなのが嬉しい。今でも家の冷蔵庫に貼ってある。(ちなみに旭山動物園で買ったマヌルネコマグネットも貼ってある)旅先で買うご当地マグネットは最高だ。実用的であり、見る度に思い出もよみがえり、しかも可愛い。一石三鳥だ。

主人が缶入りの北海道ミルクキャンディーも欲しいと言うので、それも購入した。ご当地マグネットに缶入りキャンディーと、ベタの乱れ打ちと思われるかもしれない。だが初めて行く旅先では、何事もベタが一番だ。

展望台を満喫した私達はエレベーターで一階まで降りた。そのまま帰るつもりだったが、出口付近で『雪印パーラー』を見つけてしまった。北海道で食べるソフトクリーム、なんて贅沢で魅惑的な響き……しかもあの素晴らしい夕食の締めである、寄らない手は無い。
さっぽろテレビ塔での有終の美を飾るべく、私達は迷うことなく寄り道することを決定した。

二階のイートイン席へ向かう短い階段を上がり、窓際の席に腰を落ち着ける。温かい室内で食べるソフトクリームの美味しさを、どうしたら皆さんに伝えられるだろうか?しかも北海道の雪の夜に!
未だ雪が降る中、のんびりと行き交う人たちを眺めながらソフトクリームに舌鼓を打った。濃厚なのにさっぱりとした滑らかな口当たりのソフトクリームは、ボリューミーながらペロリといけてしまう逸品だ。
私達は、あの人たちはどこから来たのだろう?あの身のこなしは地元の人じゃないか?などと人間ウォッチングを楽しみながら、ソフトクリームを完食し、さっぽろテレビ塔を後にした。

北海道が舞台の某探偵映画のファンである私達は最初、大通公園だけを見て帰るつもりだった。(ススキノのニッカの大看板ももちろん見てきたが、圧巻の一言だ。看板の背景の色が変わることを皆さんご存知だろうか?通行の妨げにならない程度に、好きな色の時に写真を撮るのもオツである)
あの日、あの瞬間、さっぽろテレビ塔へ行けて本当によかったと思う。もしあの時吹雪にならなければ、公園をひと通り見て、テレビ塔を外から眺め、写真を撮って満足して帰ってしまっていたはずだ。

新潟に住んでいたことがあるので雪の大変さは嫌という程分かっている。軽率にこんなことを言うべきではないかもしれないが、今だけはどうしても言わせて欲しい――私は、あの日の雪に感謝したい。今思えば、あれは北海道がくれた奇跡だったのかもしれない。
きっとあの日のことは一生忘れないだろう。それくらい心に残るひと時を、あの日北海道とさっぽろテレビ塔が私達にくれたのだ。

北海道に遊びに来られた方はぜひ〈さっぽろテレビ塔〉に立ち寄ってみてほしい。もしも行ったことがないという地元の方がいたら、改めて訪れてみてほしい観光名所だ。(私の地元では道後温泉が有名だが、四十年生きてきて数年前にようやく初めてそこを訪れた私である。地元の観光名所というものは、地元の人間は中々行かないというのはあるあるだと思うのだ)

さっぽろテレビ塔は、ひとつの場所で食やエンターテインメントや感動が味わえる素晴らしい空間であると私は感じた。これは、外から眺めていただけでは知ることの出来なかった、さっぽろテレビ塔のもうひとつ先にある魅力である。
もしまた北海道へ旅行に行けるのなら、間違いなくもう一度行きたいお気に入りの場所となった。だからこそ私は大きな声で皆さんに伝えたい。
〈さっぽろテレビ塔〉はTHEワンダーであふれている!

大通公園の見渡せる洋食レストランNEW SANKOで夕食を楽しみ、展望台から光あふれる美しい札幌の街を一望しつつ神社でお参りし、土産物を買い、雪印パーラーで地上からの景色も楽しみながらデザートのソフトクリームを食べて帰るのが私のおすすめ〈さっぽろテレビ塔〉観光コースである。
雪が少し降ってくれていると、なお素敵かもしれない。あなたにも、北海道の奇跡が起こることを願って。

一日も早くコロナ禍が終息し、皆さんの心身に平穏が訪れ、また沢山の人が北海道に遊びに来られる日が来ますように。その時は、〈さっぽろテレビ塔〉もどうかお忘れなく。

音囲 薫
さっぽろテレビ塔があまりにも素敵だったので、いつか行く方の為の参考になればと、つい投稿してしまった北海道を愛する愛媛県民です。
普段は絵を描いていますが、コロナ禍で文章を書く楽しさも知りました。
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