剥製でしか会うことができない?エゾオオカミの絶滅に迫る

かつて北海道に生息していたエゾオオカミのお話です。2022年現在、彼らは絶滅してしまった動物のひとつです。今回の記事では、エゾオオカミ絶滅の原因や、オオカミが絶滅してしまった日本で起こっているさまざまな問題と向き合っていきます。

目次

エゾオオカミを知る

北海道を代表するエゾ(蝦夷)オオカミの形態や特徴を、写真を添えて、お伝えしていきます。絶滅してしまったエゾオオカミを知ることで見えてくる歴史的背景や、これからの課題を追っていきます。

エゾオオカミの形態

エゾオオカミはイヌ科イヌ属の哺乳類です。体長は約120〜129センチメートル。尾の長さは約27〜40センチメートルです。全体的に毛の色が黄色く、尾の先だけが黒色です。前足に黒い斑点がみられるのもエゾオオカミの特徴です。口先は他のオオカミと同じく、細長いです。立派な犬歯、鋭い牙が覗きます。

エゾオオカミの生態

エゾオオカミはイヌ科の動物です。イヌ科の動物とネコ科の動物の違いとして、「群れる」「群れない」という社会構造があります。ネコ科でわかりやすいのがトラやチーターなど。彼らは単独で狩りを行い、生活をしています。

いっぽう、イヌ科の動物であるエゾオオカミは単独でなく、集団で生活をする動物です。群れを形成して狩りを行い、生活を営みます。これはネコ科の動物のからだの構造とイヌ科の動物のからだの構造が異なっているためでもあります。

エゾオオカミの特徴

エゾオオカミの特徴として、かつて日本全土に分布していたニホンオオカミよりからだのサイズがひと回り大きいことがあげられます。他にも、からだを覆う被毛の色が黄色に近いことがあります。他のオオカミの毛色は褐色や、白色、灰色が多いです。

また、エゾオオカミはその地域柄、エゾシカや海岸に座礁したクジラの肉を食べていたことが知られています。

エゾオオカミはアイヌ民族と共存していた?

縄文時代から北海道にて生活をしてきたアイヌの人は、エゾオオカミを「ホロケウカムイ」と呼び、共存していました。カムイは「神」という意味をもちます。つまりアイヌの人たちはエゾオオカミを神として崇敬していたのです。

では、なぜエゾオオカミは絶滅してしまったのでしょうか?
アイヌの人たちと共存してきたはずのエゾオオカミが絶滅に追いやられた歴史や背景を見ていきます。

なぜエゾオオカミは絶滅したのか

エゾオオカミが絶滅したのは明治時代です。1896(明治29)年〜1903(明治36)年の間と推測されています。たった7年のあいだにエゾオオカミは絶滅してしまいました。彼らエゾオオカミの身にいったい何が起こったというのでしょうか?

エゾオオカミの歴史と背景

レッドリストに「EX(絶滅)」と赤字で記載のあるエゾオオカミ。彼らの絶滅に大きく関与しているのが①北海道の開拓です。これは本州より北海道へ渡って来た人びとによって行われた開拓です。この北海道開拓により、エゾオオカミの獲物であったエゾシカが減少します。エゾシカの減少によりエゾオオカミの獲物が激減。食料不足へと陥ります。そこでエゾオオカミが代わりに獲物に仕留めはじめたのが家畜である馬などです。

馬を襲うようになったエゾオオカミは人びとに「害獣」と呼ばれ、駆除の対象となります。そこで②開拓使(機関)はエゾオオカミの駆除に奨励金をかけるようになりました。エゾオオカミ一頭につき10円もの賞金がかけられたのです。当時の10円は現在の価値(推定)として20万円ほど。この賞金により、多くのエゾオオカミの命が失われることになります。

餌の中に毒薬(硝酸ストリキニーネ)を混ぜるなどをしてエゾオオカミを駆除。数を減らしたエゾオオカミにさらなる悲劇が襲いかかります。③大雪によるエゾシカの大量死です。食料の無くなったエゾオオカミは次第に追い込まれ、餓死していきます。

その後、④政府による賞金制度は廃止されたものの、エゾオオカミの駆除頭数は3000頭にものぼります。⑤北海道・函館の毛皮商人によってエゾオオカミの毛皮が扱われたのを最後の記録として、エゾオオカミの生存記憶は途絶えています。

エゾオオカミの絶滅背景(年表)

  1.  1869年(明治2年)
    北海道の開拓がはじまる
  2. 1876年(明治9年)
    政府機関によるエゾオオカミへの奨金制度が実施される
  3. 1879年(明治12年)
    大雪によるエゾシカの大量死
  4. 1888年(明治21年)
    エゾオオカミにかけられていた奨金制度の廃止
  5. 1896(明治29)年
    毛皮商人によるエゾオオカミ毛皮最後の取り扱い・輸出

エゾオオカミの居ない北海道で今、なにが起こっているのか?

オオカミは生態ピラミッドの頂点捕食者に位置しています。エゾオオカミが絶滅した今、北海道でどのようなことが現象として起こっているのでしょうか。

エゾシカによる被害とその関係性

捕食者の頂点であったエゾオオカミが居なくなる。そのことで生態系バランスが崩れることの他に大きく関連している問題があります。近年まさしく問題となっている「エゾシカの増加」です。エゾシカの増加により農業への被害が問題となっているニュースはテレビでも報道されています。

エゾシカの捕食者であるエゾオオカミが絶滅してしまったためにエゾシカは急増。増え続けたエゾシカは農業被害の他にも、樹木を傷つけたりと、北海道の広範囲の森林へダメージを与えています。

そこで、エゾシカの頭数を減らすために思案されたのが、オオカミの再導入です。

オオカミの再導入を検討

エゾオオカミが絶滅したことでエゾシカが増えてしまった。ならば、もう一度オオカミを森林へ導入してはどうだろう? 人為的にオオカミの群れをふたたび形成すれば生態系のバランスは安定するのではないだろうか? そういう試みをもとにしたのがオオカミの再導入です。

日本でもオオカミの再導入が検討されています。しかし現時点の日本において、オオカミの再導入は決定されていません。再導入について、さまざまな意見が寄せられており、議論はしばらく続きそうです。

このオオカミの再導入。実はすでに海外で実施されています。アメリカのロッキー山脈やイエローストーン国立公園、アイダホ州ではオオカミの再導入が実施され、オオカミの群れを形成することに成功しています。日本の他にもヨーロッパでもオオカミの再導入が検討されています。

もしも日本にオオカミを再導入するとしたら、小型のハイイロオオカミが適していると言われています。

北海道で希少なエゾオオカミの剥製を見る

残念なことに2022年現在でエゾオオカミに会うことはできません。しかもエゾオオカミの剥製は非常に希少でわずか4体のみと言われ、北海道でエゾオオカミの剥製を見ることができるのは『北海道大学植物園』です。

植物園では、エゾオオカミの剥製の他にもヒグマや『南極物語』でお馴染みの『タロ(犬)』などの展示が行われています。

さいごに

これまでの記事でも「動物の絶滅」についてお話してきました。
これまでと異なるのは、今回のエゾオオカミは既に絶滅してしまっているということです。

よってエゾオオカミは剥製でしか会うことが叶いません。これはとても悲しい事実です。今、世界中で絶滅の危機に瀕している動物の数は3万5000種以上いるとされています。これらの動物が絶滅の危機に晒されている原因に、私たち人間の活動は大きく関わっています。

人間と動物がうまく暮らしていくにはどうしたら良いのでしょうか?

『文明より先に森林があり、文明のあとには砂漠が残る。』これは作家のシャトー・ブリアンの残した言葉です。この言葉の通りにならないために、私たちは動物を守っていく義務があります。

まずは、知ることが大切です。
北海道へ趣き、エゾオオカミの剥製を目にし、エゾオオカミのことを知る。このことは動物との共存を意識をする中で、とても重要となってくるはずです。

さいごに、漫画『ゴールデンカムイ』のお話を少しだけさせてください。実はこの漫画にもエゾオオカミが登場しています。明治末期の北海道を舞台にした漫画『ゴールデン』に登場するエゾオオカミの名前は『レタラ』と言います。毛の真っ白なオオカミです。

作中の猟師たちに「最後のエゾオオカミ」と呼ばれるレタラ。『ゴールデンカムイ』に登場する動物たちは、どれもリアルに描かれています。漫画を読み進めていくだけでも動物たちのことを楽しく知ることができます。動物たちの驚くべき生態を知ることができます。アニメ化もされている人気の作品です。ご興味のある方はぜひ一度チェックしてみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

※アイキャッチのオオカミはイメージです。

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