転職先は北海道?礎を築いた「独眼竜政宗」の子孫たち

雄大な大自然、飲み屋が立ち並ぶ歓楽街。観光地として、国内外に広く知れ渡る北海道。200年ほど前、原野だったこの地の開拓を進めたのは、「独眼竜政宗」こと戦国武将伊達政宗の子孫とその家臣たちであった。
厳しい寒さ、害虫被害、明治政府の冷遇。度重なる困難を乗り越え、繁栄の礎を築いた彼らが開拓した胆振には、当時を知る史料や遺構が多数残されている。
コロナ禍など苦難が続く現代。こうした「先人の足跡」に乗り切るヒントがあるのかもしれない。

目次

なぜ北海道?

伊達政宗が藩祖の仙台藩は、石高62万石の大藩である。
一門筆頭で角田を領する石川家と亘理を領する伊達家は、藩の重臣として、存続に大きく貢献してきた。

転機となったのは、1867年。江戸幕府最後の将軍、徳川慶喜の大政奉還だ。翌年には戊辰戦争が勃発。当時の仙台藩主伊達慶邦は、「奥羽越列藩同盟」※1 に参加した。武器の質、人員で勝る新政府軍相手に同盟側は善戦するも敗北。仙台藩は28万石に大きく減封となり、石川、亘理伊達については、領地の9割以上を失い、家臣らの食い扶持に困ることになった。

活路となったのが、明治政府が推し進めていた未開の地、蝦夷地(後の北海道)の開拓。武士の誇りを守るため、わずかな希望を信じて移住したのである。

※1 (新政府軍に不満を持つ東北と越後(今の新潟県)の31藩で構成※結成当時)

転職先は苦難だらけ

「武士の商法」を聞いたことがあるだろうか。明治政府の政策により、帯刀などの特権を取り上げられた武士の慣れない商売をやゆした言葉である。住み慣れた故郷を召し上げられ、やむなく蝦夷地に移り住んだ旧仙台藩士も慣れない仕事に苦心した。
筆者が住む室蘭市の様子をのぞいてみたい。

刀を鍬に 室蘭を開拓石川家の場合

明治政府は1869年、角田の領主石川邦光に胆振国室蘭郡の支配を命じた。移住の中心的役割を担ったのが、重臣の1人添田龍吉である。龍吉は邦光に室蘭郡をあてがわれた翌年春、わずか44戸51人を率いて移住。開拓に汗を流した。室蘭の語源はモルエラニ(アイヌ語で小さな坂を降りたところ)である。由来通り坂が多く、獣が徘徊する原野を手作業で拓いた龍吉たちの労苦は筆舌しがたい。

龍吉たちをさらなる試練が襲う。移住者の精神的支柱となる主君邦光が、来蘭を拒否したのだ。父義光の死や帰農を申し出る家臣が増え、移住計画がうまくいかなくなったのである。事態は明治政府の耳に入り、邦光は室蘭郡支配を罷免されたのだ。室蘭郡は近隣の領主に分割統治されることになった。

龍吉たちは負けなかった。いわゆる「副業」で難局を乗り切ろうとしたのである。借金して建てた製塩所は、暴風雨で一夜で壊滅した。江戸時代後期に流通した天保銭を溶かし、青銅製の釜を作って販売を試みたこともあった。どれも軌道に乗らず、衰退の道をたどるのである。主君が統治を罷免され、アイヌら原住民の信頼が少ない龍吉らは陣羽織と食べ物を交換するなど自力で糊口をしのいだ。

龍吉たちの移住から4年が過ぎた1873年。要望に応え、邦光の弟で、当時13歳の光親が61戸211人の同志を伴い角田から来蘭する。新たな精神的支柱を得た龍吉たちの士気は上がった。一方、苦難も多かった。コレラなど伝染病の流行。新たにはじめた副業「養蚕」は、都市札幌への流通に課題が生じて徐々に衰退。国策である屯田兵の移住により、仲間が新天地へ。不屈の精神で挑戦を続けた結果、市内を流れる川の水を凍らせた「製氷」が当たり、「輪西氷」の名で大阪に出荷された。

自ら音頭をとる指導者も

胆振には、龍吉や光親のほか、開拓の音頭をとった指導者が多数いる。代表的なのが、伊達郡(現在の伊達市)を開拓した伊達邦成。幌別郡(現在の登別市)を開拓した片倉邦憲であろう。彼らは邦光とは異なり、自ら渡海し、開拓にいそしんだ。

邦成については、西洋式の農具をいち早く取り入れるなど先見性の評価も高い。胆振では、市町名に開拓の祖の苗字をとったり、功績をたたえる祭りやイベントが盛んだ。現在はコロナ禍で中止が続いているが、関係者は再開の方法を模索している。

まとめ

開拓の祖に共通しているのは、「リーダーシップ」と「不屈の精神」であろう。コロナ禍の現代を生きる我々はどうだろうか。時流を言い訳に問題から逃げてはいないだろうか。

最後に胆振には、彼らの足跡に触れる場所が多数あるので、いくつか紹介したい。

・室蘭市民俗資料館(室蘭市陣屋町)
・登別市郷土資料館(登別市片倉町)
・だて歴史文化ミュージアム(伊達市梅本町)

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