北海道しりとりツアー

川柳が好きな私と、しりとりが好きな息子。
二年前ふたりで一泊二日の北海道旅行に出掛けた。
プランはノープラン。しかし行き先や食事を「しりとり」で決めることになった。

「ほっかいどう」
「う?う…う…うーん…ウニ!」

まさかのウニ。最初にして、最強のキーワード。新千歳空港に降り立つやいなやウニのお店を探す。
するとあった、あった。「海鮮丼を食べるならココ!」と地元でも評判のきくよ食堂である。
確かにネット上の評判もかなりいい。イイネの数も半端ない。ただ「イイ値」なのである。

「ウニ丼は時価ですが。本日は4980円です」

いきなりの大奮発。しかし一切悔いはない。何てったって、このウニ。ウニムラサキウニで、無添加の海水ウニだと言うから珍しい。口に入れると瞬時にとろけていき、舌の上に濃厚な味が広がる。

「これがウニ!?」
そこで思わず一句。

いい値でも
無添加ウニに
超イイネ

そしてウニを堪能した私たちは次の地を求めてしりとりへ。

「ウニの二か……」

悩む私。そこへ息子が「ニセコ!」と叫ぶ。
ニセコと言えばいまや国内外問わず旅行客に大人気の観光リゾート。私たちはレンタカーを借りていざニセコを目指した。

車を走らせること二時間。ニセコのシンボル、羊蹄山が顔を出す。
ここで一句。

そびえ立つ
妻はわが家の
羊蹄山

いやはや何と雄大で美しい景色。しかしふと隣の息子を見ると何やら次のしりとりを考えている。

「コ、コ、コ、」

私は『コテージ』が出ることを期待した。祈った。ニセコのコテージなら温泉もバーベキューも楽しめる。

しかし、である。
「コロッケ!」

え。私は目が点になった。わざわざニセコまで来てコロッケを食べるなんて。しかし約束は約束。ここで息子の意見を尊重しなければ親としてのメンツが立たない。

「よし、コロッケのお店を探そう」

私たちが車を走らせること五分。
洋食屋のじゃが太という看板を発見。

「すみません。こちらにコロッケは置いてますか」

店主はニッコリ微笑んだ。
聞けばここ周辺は『ニセコ羊蹄コロッケ街道』と称して、コロッケで盛り上がっているらしい。

そこで早速ニセコ羊蹄コロッケ定食を注文。
羊蹄山を眺めているとまもなくコロッケが登場。

「あんまーい」

まるで砂糖にハチミツをかけたような甘さ。それでも一切砂糖を使っていないと言うから驚き。
これが噂の完熟じゃがいもというヤツだった。この独特の甘みは店にある雪室貯蔵庫のおかげ。ここでじっくり寝かすことによって強い甘みが出るという。

ここで一句。

年ごとに
芋としつけが
甘くなる

結局牛すじハヤシライスセットも食べたいという息子を許してしまった。いやはや躾の甘さはコロッケ以上だ。

「コロッケだから次は『ケ』か……」
「ケ、ケ、ケ、ケーブルカー!」

ケーブルカー!?ニセコにケーブル・カーなんてあるのだろうか。そこでスマホを取り出す。

「二」と打てば「ニセコ」と出ちゃう私のスマホ。もはや北海道仕様である。
だが調べるとあった、あった。
ニセコサマーゴンドラという巨大なケーブルカー。

「よし、行こう」

我々はいざニセコサマーゴンドラへ。標高820メートルと言うから高いなんてもんじゃない。ただこれだけの感動を味わえて、大人 1,200円、小人 600円は全然高くない。

「レッツゴー!」

緑溢れる雄大な眺めとともに、標高差500mを一気に駆け上がるゴンドラ。そのままニセコアンヌプリ中腹へ。上から眺める羊蹄山やニセコエリアの大パノラマはまさに絶景。
約十分の乗車を経て、ゴンドラ山頂駅を降りると付近に何やら人集り。見れば展望ベットである。私も早速腰を下ろす。

「ああ気持ちいい」

イイネより
ベッドにもらう
いい眠り

展望ベッドを満喫した私たちはその日素泊まりで2日目を迎えることに。

そして翌朝。

「カ、カ、カ、カニ!」

息子は開口一番、こう言った。やっぱり北海道と言ったらカニだ。私も異議なし。早速カニの美味しいお店を目指す。
向かった先は小樽三角市場。ここのカニはほとんどが水槽の中で生きている。希望すれば購入後すぐに茹でてくれると言う。
店先に並ぶ、タラバ、ズワイ、花咲ガニ、毛ガニ。水槽はまさにカニの宝石箱。

「じゃあ、毛ガニ下さい」

ふわふわの身。何よりカニミソの甘みが半端ない。しかしズワイガニも食べたくなる。

毛ガニから
ズワイガニへと
横歩き

「刺し身も、焼きも、ボイルも、あるよ!」

何ということだ。ボイル以外にも味わえるなんて。
これぞズワイの雑技団!

どれも本当に美味しかった。

さて我々はいよいよ旅のクライマックス、ランチへ。
カニの「二」で始まる美味しいものを考える。肉か。肉しかない。肉であって欲しい。そおっと隣の息子を見る。

「にぎりずし!」

肉じゃなかった。しかし気を取り直して店選び。小樽にある無数の寿司屋から、とびきりの店を探す。
あった、あった。

日本一うまい回転寿司店になるがモットーの函太郎だ。口コミでは「値段もネタも小樽の回転寿司店ではナンバー1」とある。家計マイナス、期待値プラス。

「ここにしよう」

我々が最初に手を伸ばしたのは、本鮪大トロ一貫。何より目を引くのがそのデラックスな見た目。だがそれ以上に味は抜群だった。なんて言ったって、口の中でとろけるようなフワトロ感がたまらない。新鮮なので生臭くないのもおいしさの秘密。

はじめての
トロに心が
タイになる

そして次に手を伸ばしたのが、『海宝こぼれ巻』。本鮪から見事なバトンパス。
待つこと数分。目の前に現れた軍艦を見てビックリ。軍艦に乗っかる海鮮の多いこと。まさに海鮮の黒船襲来である。

「すごーっ!」

すっかり心を奪われた私たち。
息子においてはイクラ一粒一粒まで愛おしそうに口に運ぶ。
その姿を見て、親心にも、値段なんて気にしてはいられなかった。

この軍艦
いくら?などとは
聞けません

このあと生ズワイガニや大牡丹海老を食した私たち。お腹も心も満たされ、新千歳空港へと向かった。
最後までしりとりの通りとはいかなかったが、記録より記憶に残る旅だった。

カメラは持っていかなかったが、悔いはない。

やわらかい北海道の風。
鼻腔を突き抜けるグルメの香り。
熱く、温かい、店のおもてなし。

どれもこれも大切な宝物。心のごちそうだった。

だから言いたい。しりとりの最後に、感謝を込めて。

ごちそうさ『ん』

こまゆみ
小学生の息子を持つ主婦。夫が単身赴任のため、息子と出掛けることが多い。基本的にコースなどは決めず、思いのままふらふらするのが好き。現在バイク免許取得中。
夢は息子とツーリング。
※画像はイメージです
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