ひかりごけ事件とは?

1943年、知床岬で陸軍徴用船が難破し、生き延びた船長の生き延びた術は「食人」だった。
船長はどのような心境だったのか?
極限状態で起きた悲劇「ひかりごけ事件」を解説します。

目次

遭難

1943年12月、陸軍徴用船「第五精進丸」は知床半島にある根室港を出港し、宗谷岬を回って小樽へ向かう計画でした。しかし、知床岬の沖合で強風にあおられ、荒波に巻き込まれて座礁。
乗組員7名は知床半島の東側、先端の知床岬から南東に約9kmぐらいに位置するペキンノ鼻にたどり着きました。

ペキンノ鼻は現在でも人が住んでいないどころか、道路すら開通していない未開の地で、12月といえば北海道や北国で生活したことのない方は想像できないと思いますが、雪と氷点下の気温が続く過酷な環境で、この状況下で生存するのはまず不可能です。

船長 (当時29歳)らは、漁師が使っている番屋を見つけ避難。遅れて最年少の船員Aさん(当時18歳)もたどり着きます。他の2名もそばにあった番屋に避難しました。
番屋は漁期に漁師たちが仮の拠点として、漁に使う道具や最低限の生活用品や食料の蓄えを用意した、寝泊まりや作業をする為に簡易的な小屋です。

船長たちはワカメやコンブを拾いながら、番屋に残されたわずかな味噌と塩で飢えをしのぎ、救助を待つのですが、体力のない者から順番に亡くなっていきました。
生き残った船長はこのままでは助からないと思って、南下していったようです。

1944年2月、2日間歩き続けて約20km離れた羅臼町岬町に到着。
漁師の老夫婦の家にたどり着き保護されました。
「船が難破して乗組員6名は死亡したが、自分は番屋で生きのびた。蓄えられていた食料や流れ着いたトッカリ(アイヌ語=アザラシ)を食べていた」と語る船長に、知床の冬を知っている老夫婦は過酷な環境で生きのびた奇跡の出来事に感動。
世間は「不死身の神兵」として湧き上がり、本来ならば美談でおわるのですが、船長に疑惑を持った警察官の存在で状況が一変してしまうのでした。

疑惑

船長は持っていた乾燥肉は、アザラシと主張するのですが時期的にペキンノ鼻の近辺に現れる事はありません。
肉はどうもアザラシの物ではないようで、彼の言動や行動からも関係者たちの間に「もしかして、他の船員を手にかけて食べたのでは」と疑いが生じてきます。

救助から約2週間して、警察は船長らが過ごした番屋へ現場検証へ向かいました。
そこでは船員の凍死した死体を発見して回収するのですが決定的な証拠にはなりません。捜査が進むにつれて警察や軍の上層部から圧力がかかり、中断せざるを得なくなったのです。

やがて5月の漁期に入り、番屋にやってきた持ち主の漁師が見つけたのは人骨と剥ぎとられた皮が入ったリンゴ箱、さらにウニの加工台では仲間を加工した形跡もあった。
驚いた漁師は警察へ通報、駆け付けた警察官が箱の中を調べると人間1人分の骨、それは肉や脳などの食べられる部分は無くなっていて仲間を食べた証拠。

少し離れた場所で2名の遺体も発見されますが、残る2名は行方不明でつまりは。

後悔

6月、警察は「殺人・死体遺棄及び死体損壊罪」の容疑で逮捕。
船長はあっさり遺体を食べたと認めますが、殺人は否認。食べるために殺したのではなく、亡くなってしまったから生き残る為に食べたと主張しました。
裁判の結果、刑法に「食人」の規定が存在しないので裁判は行われず、主張から殺人罪は適用されず、「死体破損」の罪となるのですが、心神耗弱が認められ懲役1年という、一見軽すぎると思われる実刑判決。
船長本人は「人を食べた私が懲役1年という軽い罪で済まされるはずがない」、「死刑でも足りない」と自分の犯した罪を認めて悔やみました。

証言によれば、食人に至った事は理由は正常な判断ができないほどの空腹に耐えかね「ひもじくて、ただ食べた」。
「人間ではなく動物の肉のつもりで肉を削ぎ、無心に食べ空腹を満たし、後になってうまいと思った。」
つまるところ、人のもつ生存本能で行動したのでしょう。

顛末

周囲から殺人して食人したと言われると「2人しかいないから励まし合って生きようとしたのに、その大事な相手まで殺す必要がどこにあるのか」と発言。
この言葉には殺人を否定しながらも、できることならば二人で生き残りたい思いが感じとれます。
1989年12月に76歳で亡くなるまで、重い十字架を背負ったのでしょう。

「ひかりごけ事件」と呼ばれるようになったのは、この事件を元に1954年に出版された小説「ひかりごけ」に由来しています。

参考
wikipedia ひかりごけ事件

※画像はイメージです。

この記事は面白かった?

面白かった
イマイチ
Thanks for your feedback!
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

\ コメントくださ〜い /

コメントする

コメントは日本語で入力してください。(スパム対策)

目次