あの朝、トマムの雲海が教えてくれたこと。

東京の片隅で日々モニターと睨めっこしている三十路のサラリーマン。
旅は好きだが、どこか斜に構えて感動を分析してしまう癖がある・・・正直に言います。
俺はインスタに溢れかえる「絶景」ってやつが、心の底から嫌いです。

「どうせ加工でしょ」「現地行ったらガッカリするパターンだろ」
そうやって無感情にスマホの画面をなぞるだけの日々でした。

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旅の始まり

そんな俺のタイムラインに、ある日、やけにリアルだけど、CGみたいな画像が流れてきたんです。
それが「トマムの雲海」。
足元に広がる、本物の雲の海。あまりに出来すぎた光景に、もはや現実味なんてゼロでした。
「ありえない」そう吐き捨てながらも、心のどこかで無視できない何かが引っかかっていたんです。

もし、これが本物だったら?
仕事でささくれだった心で、ほとんどヤケクソみたいに、俺は北海道行きのチケットを取っていました。
嘘だって暴いて、スッキリしてやろう。
そんなひねくれた動機だけが、俺をトマムに向かわせていました。

ファーストコンタクト

この旅が、俺の凝り固まった常識をぶっ壊すための旅だったと気づいたのは、まだ旅の序盤、千歳空港で何気なく買った一本のトウモロコシがきっかけです。
一口かじった瞬間、脳がバグりました。マジで。
俺が今まで食ってきたトウモロコシとは、全く別の食べ物。野菜じゃなくて、とんでもなく甘いフルーツなんです。
理解不能なうまさに、ただ呆然としました。

札幌で食ったスープカレーも同じ。
ただ辛いだけじゃない。
スパイスと野菜の旨味が殴りかかってくるような衝撃。

ああ、そうか、北海道の「食」は理屈じゃない。素材そのものが持つエネルギーが、こっちの常識なんて軽々と超えてくるんです。
大地に「お前のちっぽけな経験則なんて、こんなもんだ」と、真正面からぶん殴られたような感覚。
でも不思議と、それが最高に気持ちよかったんです。

運命の朝

道中いろいろとあったが凡庸なことなので省きます。
そうしてトマムに到着し、運命の朝が来ました。
午前3時半。スマホのアラームを叩き割りたくなる衝動を抑え、クソ眠い目をこじ開けてホテルの外に出る。

まだ真っ暗な中、同じように死んだ魚の目をした人たちが、ゴンドラに吸い込まれていく。正直、期待なんて1ミリもしていませんでした。

山頂のテラスに降り立った、その瞬間。
息が、止まりました。本当に。目の前に広がっていたのは、俺が知っている物理法則が完全に崩壊した世界でした。
眼下には、どこまでも、どこまでも続く、雲の海。
比喩とかじゃなく、ガチの「海」。静かに波打ち、山々のてっぺんを、まるで海に浮かぶ島のように見せている。

俺が立っているこの場所だけが、地球じゃない、どこか別の惑星みたいでした。
やがて太陽が昇り、金色の光が雲の海に突き刺さった瞬間、俺の涙腺はぶっ壊れました。なんで泣いてるのか、自分でも分かりませんでした。
ただ、綺麗だから、じゃない。この人間の力が一切及ばない、天文学的な偶然だけで生まれた奇跡の前に、昨日まで俺が悩んでいた仕事のミスとか、人間関係のいざこざが、もう本当に、どうでもよくなったんです。
自分の悩みなんて、宇宙のゴミみたいなもんだと。魂が丸洗いされていくような、そんな感覚でした。

北海道の問い

雲海の衝撃で頭が空っぽになったまま、俺はレンタカーを走らせました。
富良野へ向かう、途中で地平線まで続く一本道。視界には、道と、空と、緑しかない。
広告も、騒音も、他人の目もない。情報が、何もない。
その「何もない」時間の中で、情報漬けだった俺の脳みそから、余計なデータがどんどん削除されていくのを感じました。そして、その空っぽになった場所に、ずっと無視してきた自分自身の声が、やけにはっきりと聞こえてきたんです。

「お前、本当はどうしたいんだっけ」と。

答えなんてすぐに出ません。
でも、その問いと向き合える静かな時間こそが、今の俺には必要だったんだと分かりました。

北海道というもの


北海道のデカい風景は、答えをくれるわけじゃない。
俺たちの中から余計なものを全部吸い出して、空っぽにしてくれる。そして、その空っぽの心に、本当に大事なものだけが、ポツンと残るんです。
あの旅から帰ってきた東京の夜は、前とは少しだけ違って見えます。

俺の心は、あの朝、トマムで見た美しいバグによって、静かに、でも確実に再起動させられました。
もし、あんたの毎日が少しでも色褪せて見えるなら。
ぶっちゃけ、騙されたと思って、あの美しいバグを見に行ってください。
世界はあんたが思っているより、ずっとヤバい奇跡で満ちていますから。

※画像はイメージです。

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