アイヌに伝わる民話の絵本「カムイ・ユーカラシリーズ」の中からキツネの神の物語をご紹介します。
キタキツネは、かつては白色だったようです。
どうして今のような、赤茶色になったのでしょうか?
マスを取り合うキツネとテン
雄大な北海道の自然とそこに暮らす人々を見守っているキツネの神。
丘に立ち、山や森、海や浜を見下ろしてるその姿は、まっ白で美しく、表情も凛々しく描かれています。
ある日、キツネはマスが食べたくなりました。そこで川へ行ってみるのですが、マスが見あたりません。川づたいに下ってみると、お腹の大きなメスのマスが上ってくるのが見えました。
しかし、そこへテンがやってきて、先にマスをつかまえてしまうのです。
キツネはテンに近づき「マスを運ぶのを手伝うから、一切れ分けてほしい」とたのみます。
しかし、テンはそれを断り、逃げ出しました。
追いついたキツネとテンの間で、マスの取り合いが始まります。
引っ張り合いは、何日も続きました。とうとうマスは、汚れて腐り、グチャグチャになってしまいます。それでもキツネとテンはマスを引っ張り続け…。
ついには、マスは千切れ、キツネとテンはひっくり返ってしまいます。
筋子の汁をかぶったキツネと、どす黒くなった血をかぶったテン、どちらもそれまで白い毛並みをしていましたが、すっかり色が変わってしまい、洗っても二度と落ちないのでした。
いじわるな心がもたらしたもの
この絵本は、キツネの神の失敗談です。
人間の村からほど近い丘に暮らし、人々や動物たちの幸せを願い、危険が迫っていれば大きな声を出して知らせる、そんな優しいキツネもときには欲を出してしまうこともあるようです。
1匹のマスをめぐって、テンと争うキツネ。何日も引っ張り合いをしている間には、別のマスが穫れようものなのにと思ってしまいますね。絵本では、呆れた様子で傍観している動物たちも描かれています。
それでも、引くに引けなくなってしまったのでしょう。どちらも意地になっているようです。
でも、このような状況は私たち人間にもしばしば当てはまるのかも知れません。身を引くこと、譲り合うことを忘れて、思わぬ結果を招いてしまうことも…。
この物語はキツネの神による一人称で、キツネたちに「いじわるをしてはいけないよ」と語りかけていますが、人間たちへの教訓であるようにも思えます。厳しさもありますが、穏やかで諭すような文体が、静かに心に刻まれます。
「カムイ・ユーカラ」というのは、カムイ(神)自身が語り手となって自分の体験を語るアイヌの口承文芸です。
アイヌの子どもたちは、物語を通して様々なことを学んだのでしょう。
キツネの神の語り口はどこかあたたかく、聴く者も反発を覚えることなく受け入れられたのかも知れませんね。
北海道の大自然と生き生きとした動物たち
「ケマコㇱネカムイ」は、アイヌの民話を元にした絵本「カムイ・ユーカラシリーズ」の全5冊のうちの1冊で、アイヌ文化研究者の藤村久和さんによって書かれました。
木版画家・絵本作家の手島圭三郎さんの手による版画は、臨場感あふれる北海道の大自然が美しく、そこに暮らす動物たちも生き生きと描かれています。
「ケマコㇱネカムイ」には、文章がないページもあります。じっと見ていると、川の流れ、海の波音、葉擦れの音や動物たちの鳴き声が聞こえてきそうです。風のにおいさえ感じるような気がします。ゆったりと絵本を開き、ぜひその絵のすみずみまで味わってみてはいかがでしょうか。
(C)「ケマコㇱネカムイ~神々の物語~」藤村久和 文・手島圭三郎 絵 絵本塾出版


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