動物の神々が登場する「カムイ・ユーカラシリーズ」のラストにご紹介するのは、北海道で最も大きな鳥といわれている「シマフクロウ」が登場する絵本です。
カムイチカㇷ゚の怒りが、敬意を払わないシャチたちに襲いかかります。
シマフクロウの神とシャチの群れ
山奥に暮らすシマフクロウの神「カムイチカㇷ゚」は、ある日、浜へとおります。
枯れ木のてっぺんで羽根を休めていると、海の彼方からシャチの群れがやって来るのが見えました。
カムイチカㇷ゚に気づいたシャチの頭目は、群れに向かって静かに泳ぐように言います。噂に高いシマフクロウの神に敬意を払ってのことでした。
ところが、後からやって来た若いシャチたちは、カムイチカㇷ゚を見て悪口を言い、大きな音をたてたのです。
怒ったカムイチカㇷ゚が翼を広げて羽ばたくと、山から激しい風が吹いてきて、木々や石、岩を巻き込み、シャチの群れを襲いました。
風がおさまった後には、シャチの群れは跡形もなく消えていたのでした。
それから数年がたち、カムイチカㇷ゚は再び浜へおりていきます。
すると、またシャチの群れがやって来るのが見えました。
シャチの頭目は、群れに向かって静かに泳ぐように言います。するとシャチの群れは、行儀よく並んで泳いでいきました。
長い年月がたつ間に、シャチの頭目も入れ替わりますが、一族は毎年カムイチカㇷ゚に挨拶に来るのでした。
シャチたちの行動に感心したカムイチカㇷ゚は、末永くシャチたちを見守ることにしたそうです。
たった一度の失敗で取り返しのつかないことに
「カムイ・ユーカラシリーズ」は、語り手である動物の神(カムイ)自らの失敗から「このようにしてはいけない」と教え諭すものでしたが、この絵本ではシマフクロウの神に対して失礼な態度をとったシャチに怒りが下されます。シャチの若者の悪ふざけが、大惨事を呼んでしまうのです。
きちんと敬意を払っていれば、いつまでも見守ってもらえたものを、一部のシャチの軽はずみな行動によって、群れ全体に被害をこうむってしまいました。
若いシャチたちは軽い気持ちだったのでしょうが、一度の失敗で取り返しがつかなくなってしまうこともあるものです。
容赦がないのでかわいそうな気もしますが、北海道の厳しい大自然の中、人々が平和を保って暮らしていくには大切なことだったのでしょう。ただ、子どもたちと一緒に読んだり、読み聞かせる場合は「言う事を聞かないと痛い目を見る」ということを強調すると怖がらせてしまうかも知れません。シャチが骨になってしまうシーンも、ドキッとします。
お互いに相手を思いやる優しさに目を向けて、フォローしてあげて下さいね。
絵本を通してよみがえるアイヌの伝承
アイヌの人たちには文字の文化がありません。民話は口承文芸として伝えられてきました。「カムイ・ユーカラ」というのはカムイ自身が語り手となって、自分の体験を語る物語です。アイヌの人たちは、耳で聴いて楽しみ、また大事なことを学んできたのです。
それを、今私たちが知ることができるのは、絵本という形で読むことができるからでしょう。
版画絵本「カムイ・ユーカラシリーズ」は、木版画家・絵本作家の手島圭三郎さんと、アイヌ文化研究者の藤村久和さんによって書かれました。版画は繊細ながら力強く、翼を広げたシマフクロウと、荒々しい風の描写は迫力満点です。
シマフクロウは、アイヌの人々にとって神のような存在でした。
絵本の解説によると、シマフクロウはサケやマスを捕らえて食べますが、時々爪から外れて落としてしまうことがあるそうです。これらをアイヌの人々は神の恵みとしていただいたのだといいます。
シマフクロウと比べると、シャチは随分下の立場のように見えますが、実はシャチもアイヌの人たちにとっては、神のような存在でした。力のあるシャチは、クジラなどを浜へ追い込んでくれることがあったそうです。
アイヌの人々は、動物たちと深い関係を保ちながら、共に生きてきたのですね。
そんなアイヌの知恵と想いが、この絵本から伝わってきます。
自然を敬うアイヌの人々の精神を今に伝えてくれる絵本です。
(C)「カムイチカㇷ゚~神々の物語~」藤村久和 文・手島圭三郎 絵 絵本塾出版


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