道東をめぐりながら、山へ登る旅をしていました。
天気の悪かったある日、登山をせずに斜里町で時間をつぶそうと思い、地図を眺めていると見つけたのが「北のアルプ美術館」です。
雑誌「アルプ」と美術館
『アルプ』という雑誌があったことをご存じでしょうか?
昭和33年に創刊された山の文芸誌で、今でも名の知れている畦地梅太郎や深田久弥などがその中心メンバー。
山に関する詩や随筆、紀行文から版画まで、バラエティーに富んだ作品を発表し続け、昭和58年の300号をもって終刊しました。
しかし、先人たちの山に対する気高い精神は、今もこの「北のアルプ美術館」で生き続けています。
素直に自然と向き合える、そんな美術館です。
山の仲間たち
この「北のアルプ美術館」ですが、なんと入館料が無料。
小さな博物館へ一歩踏み入れると良い意味で期待を裏切られることでしょう。
まず案内された2階には『アルプ』の主要メンバーだった画家・版画家の作品が展示され、『アルプ』の表紙を飾っていた畦地梅太郎や大谷一良の作品が並び、一気に『アルプ』の時代へと引き込まれます。
”『アルプ』の時代”は、山へアクセス手段も乏しく、山が人間生活とは程遠い高尚な存在でした。
その時代の芸術家が、いかに畏敬の念を持って山と対峙していたのかがひしひしと伝わってきます。
全号の展示は圧巻
『アルプ』の美術館ですから、もちろん『アルプ』の実物を見ることができます。
壁一面に全300号の『アルプ』が掛かっている部屋があります。
その部屋の中央には一脚の椅子があり、そこに腰を掛けて見る『アルプ』の壁は圧巻です。
多くの版画や絵画に彩られた『アルプ』の表紙は可愛らしく、見ていて飽きません。

『アルプ』のキーワード
ある明るい一室には、「北のアルプ美術館」の歩みをまとめた展示があります。
美術館を創設した山崎猛のエピソードが物語調に展示されているのですが、面白いのがAからZまでのキーワードで表現されており、それがアルファベット順に並んでいることです。
各キーワードに対する説明も視覚的に楽しく飾られており、ワクワクしながら今に至る『アルプ』のドラマを体感することができます。そして、たとえ美術館に入るまでは『アルプ』のことを知らなかったとしても、自分自身がそのドラマの延長線上に立っているような気分になります。
串田孫一の書斎
一階には、哲学者で『アルプ』の代表であった串田孫一の書斎が再現されています。
多くの書籍が並んだ雑多な空間でありながらも、山の絵が何枚も飾られていたりと、自然への愛情が漂う不思議な雰囲気です。
串田孫一もそうしていたのでしょうか、同じように山への想いを馳せます。
『アルプ』の精神
住宅街にひっそりとある小さな美術館ですが、創意工夫にあふれた展示は面白く、また館内に溢れる温かい雰囲気に心も温かくなります。
『アルプ』に対する知識などほとんどなかった私ですが、『アルプ』の精神は確かにこの美術館に引き継がれており、そして今は私の心の中にも宿っているような気がします。
また山に行きたくなる、そんな素敵な時間を過ごすことができました。
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