ススキノ頭部切断事件を考える

2023年、北海道の歓楽街ススキノにあるホテルで、切断された首なし遺体が発見されました。
犯人は、切り取った頭部と携帯電話を持ち去って逃走。
警察は防犯カメラ映像と交遊関係を追って犯人を特定し、信じがたい家族関係へたどり着きます。

それぞれの思惑とはどのようなものだったのか、行き過ぎた愛情の行方とは?
特異な家族関係に注目した「ススキノ頭部切断事件」を解説します。

目次

事件概要

2023年7月2日午後3時、北海道札幌市中央区南8条西5丁目にあるホテル「 レッツ ススキノ」202号室で、頭部が切断された遺体が見つかりました。
第1発見者は従業員。
チェックアウトに訪れない宿泊客の部屋へ入り、被害者を発見したのです。
司法解剖の結果、死因は出血性ショック。

身元は、行方不明届が提出されていた北海道恵庭市に住む会社員:浦仁志さん(当時62歳)と判明します。
仁志さんは前日の7月1日、ホテル近くのクラブイベントに参加。
午後10時30分、つばの大きな帽子をかぶり黒いスーツケースを持った女とホテルへチェックインしました。
約3時間後、女はフロントに「これから1人出ます」と連絡。
警察はこの女の行方を追っていました。

犯人逮捕

事件から22日経った7月24日。
札幌市厚別区厚別南に住む無職の田村瑠奈(当時29歳)と精神科医の父親(当時59歳)、パート従業員の母親(当時60歳)が逮捕されます。
警察によれば、防犯カメラにはスーツケースを引く瑠奈の姿が確認され、さらに車でホテルへ送迎する父親の姿も残されていました。

判明した事実

実行犯は、瑠奈で間違いありません。
彼女は折りたたみナイフで何度も浦さんを刺して手にかけ、そのあとノコギリで首を切断。
切り取った頭部をスーツケースへ入れて持ち帰りました。
浴室へ運んだあと皮膚をはぎ取り、食道気管の摘出などさまざまな損壊を実行。

殺害から5日後の7月7日。
母親へ、右眼球を摘出する様子をビデオ撮影するよう指示します。
しかし、母親はこれを拒否したため、代わりに父親が撮影しました。

3人が起訴された罪

瑠奈 「殺人と死体損壊・死体遺棄」
父親 ノコギリ・ナイフ・氷・スーツケースを購入し、犯行を助けた「殺人ほう助」
母親 浴室に遺体があると知りながら通報しなかった「死体損壊ほう助と遺棄ほう助」

ただし、現在も裁判が続いているため、確定した判決が出るのはもっと先です。

なぜ娘の犯行を止められなかったのか

彼女の父親は、札幌市東区にある勤医協中央病の精神科医師。
娘のメンタルを誰よりも理解できる立場ですが、歪んだ親子関係は子供の頃から続いていました。

主なポイントは以下の2つです。

【特殊な家族関係1】子供の頃からの溺愛

瑠奈は中学生から不登校を繰り返し、成人してからも就職せず自宅で過ごしていました。
母親が身の回りの世話をしましたが、両親とも彼女のご機嫌を伺う状態。
さらに父親へは、「母親を熟女系の風俗にでも売り飛ばせば良い」と発言し、車の運転中に首を絞めて自分の怒りをぶつける、感情のコントロールができないメンタルでした。

【特殊な家族関係2】主従関係

両親は、彼女を「お嬢さん」と呼び敬語を使う状態。
父親は瑠奈から「ドライバーさん」と呼ばれ、夜通し遊ぶ娘に付き合う日常です。
母親は「お嬢さんの時間を無駄にするな。私は奴隷です。奴隷の立場をわきまえて無駄なガソリン、お金を使うな」という誓約書に署名させられ、それをリビングに貼られました。

家の中は両親に要求して買った瑠奈の私物であふれていましたが、彼女の逆鱗に触れるため片付けることはできません。
そのため母親は、2階に残されたわずかな空間で就寝。
父親は、ネットカフェなどで寝泊りしていました。
つまり瑠奈ファーストの家族関係が続いていたのです。

なぜ娘に支配された家族が生まれたのか

精神科医の分析によれば、「自己愛性パーソナリティ障害」の疑いがあるかもしれません。
自己愛性パーソナリティ障害とは、共感性がなく自分の能力を過大評価し、他人のことは過少評価する疾患。
ただし彼女の場合は、「境界性パーソナリティ障害」も加わっていた可能性があります。
境界性パーソナリティ障害は、対人関係における不安定さをきっかけに、さまざまな場面で衝動的に行動する特徴を持ちます。

これらの疾患に陥ったのは、幼少期から甘やかされて育った環境が原因の1つ。
親からの期待と自分の理想、しかし「自分はそれに及ばない」というギャップ。
「自分はスゴイ」という気持ちを持ちながら、その一方では「私は何もできない。無価値な人間」という複雑な感情を抱くようになります。
そしてメンタルのバランスを崩し、周囲への攻撃に変わるのです。

瑠奈は恵まれた家庭に育ったからこそ、親の財力や立場を自分のものと思い込んだのではないでしょうか。
「親の育て方が間違っている」と指摘する声もありますが、それが原因とは限りません。
確かに彼女の家庭は裕福ですが、不自由のない環境はあくまで親の努力から作られたもの。
しかし、瑠奈にとってはすべて自分のために用意されたもの。
それを受け取る権利は自分にあると思い込んだ日常が積み重なり、結果的に両親を支配する構造へ進んだのかもしれません。

事件の顛末

母親は、「あまりに異常なことだったので娘に対して何も言えず、とがめることもできず認めることもできず、何も言えませんでした」と供述。
父親は、「言葉ではとても言い尽くせませんが、取り返しがつかないことをした。遺族には申し訳ないと思っている。しかし、突き出すことは娘を裏切る行為になると思った。今も娘は相当苦しんでいるから、これ以上娘を追い詰めたくなかった」と話しています。

瑠奈の異常性に翻弄されながらも、娘を守りたい気持ちが働いた状態。
両親は支配された関係から逃れられなかったことで、犯罪の片棒をかつがされました。
娘の行った殺人という罪ですら、何も発言できない状況へ追い込まれたのです。
この事件は、事実が明るみになったばかり。
今後、さらなる衝撃の真実が語られるかもしれません。

※画像はイメージです。

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