私は花を見るために旅をすることが多い。
富良野のラベンダー畑は有名だけれど、今回どうしても行きたかったのは、帯広市郊外にある「紫竹ガーデン」。
ここは、「誰かの庭を訪ねる」感覚に近いガーデンでした。
十勝平野にある、ひとりの庭
帯広駅から車でおよそ30分。
広い十勝平野の中に、紫竹ガーデンはひっそりとあり、鳥の声が聞こえ、花の香りと土の匂いが迎えてくれる。
この庭を作ったのは、紫竹昭葉(しちく・あきよ)さんという女性。
70歳でガーデンづくりを始め、90歳を過ぎても現役で草花を育て続けていた。
紫竹さんは、園芸の専門教育を受けていない。
庭づくりはすべて独学で、失敗を重ねながら少しずつ形にしてきたという。
「花に囲まれて死にたいと思ったの」
その言葉どおり、この庭には感覚が詰まっているように思えた。
咲き方を決めない庭
紫竹ガーデンの特徴は、「自然に逆らわない庭づくり」だ。
整えすぎた英国式ガーデンとは違い、草花は好きな方向へ伸びている。
夏の庭に、ルドベキアやアスター、フロックス、名前を知らない野の花が混ざり合って咲いていた。
植えられているはずなのに、野原のように見える。
中でも印象に残ったのが「風のガーデン」と呼ばれるエリアで、背の高い草花が風に揺れる様子を、ただ眺めている人が何人もいた。
この自由な咲き方を支えているのが、北海道特有の気候、朝晩の冷え込みと日中の気温差が、花の色をはっきりさせる。同じ植物でも、本州の庭とは印象が違う。
紫竹ガーデンを歩いていると、その違いが目で分かる。庭の形も、色も、ここでは人が無理に決めていない。
土地と気候に任せた結果が、そのまま残っている。
花を見たあとの、小さな楽しみ
園内には小さなカフェが併設され、歩き疲れた頃に立ち寄るのにちょうどいい。
窓の外には庭が広がり、ただそれを眺めて過ごす人も多い。
注文したのは、ハマナスのハーブティーと、十勝産小麦を使ったスコーン。
甘さは控えめで、花を見たあとの気持ちを邪魔しない味。
ショップでは、紫竹さんのエッセイ集やドライフラワー、オリジナルの花の種が並んでいる。
花の種は、家に帰ってからもこの庭を思い出すきっかけになる。
花と一緒に、時間がすぎていく
紫竹ガーデンで印象に残ったのは、花の多さや珍しさではない。
一人の女性が、年齢に関係なく始めた力強さ、夢を何十年も続けてきたという事実。
ここには、花と同じくらい「時間」が残り、花と共に「時間」が過ぎていく。
だからこの庭は、だれかの庭を訪ねる場所なのだと思う。
北海道を旅するなら、名所だけでなく、こうした人の物語が残る場所にも足を運んでほしい。
花と風を眺めて過ごす時間は、意外なほど長く記憶に残る。
※画像はイメージです。


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