新緑が美しい季節の駒ヶ岳で、7歳の少年が行方不明になりました。
家族で訪れた公園からの帰り道、些細な出来事をきっかけに、事態は取り返しのつかない方向へ転じていったのです。
事件の詳細を知れば誰もが耳を疑う、「北海道駒ヶ岳置き去り事件」を考察していきます。
事件の経緯
2016年5月28日午後5時頃、北海道亀田郡七飯町にある駒ヶ岳へ続く林道で、小学2年生の田野岡大和くん(当時7歳)が行方不明となりました。
この日、大和くんは両親と姉の4人で、近隣の公園を訪れていたのです。
広場で遊んでいる最中、大和くんが小石を投げ始めたため、母親は危険だとして注意したのですが大和くんは応じません。帰りの車内でも、その様子を見ていた父親が叱りますが、大和くんは「危なくなかった」と言い訳をします。
「反省してない」と受け取った父親は、しつけのつもりで林道上に大和くんを降ろしました。
車をゆっくり進めると、大和くんが後方から追いかけてきたため、一度は車に乗せていますが、父親は「まだ反省していない」との判断し、再び車から降ろしました。
父親はおもむろに約300メートル進んだ地点で車を止め、「男同士で話をしよう」と歩いて引き返していくのですが、大和くんの姿が見当らなかったのです。
家族3人で30分以上周囲を捜索したものの見当たらず、警察への通報したのでした。
想定外の発見現場
警察や関係機関による捜索が6日間にわたって続けられましたが、ついに大和君を発見できず、6月2日に「できることはやり尽くした」と警察は捜索態勢の縮小を発表したのです。
ところが翌日、捜索7日目の6月3日午前7時50分頃、大和くんは発見されました。
場所は、置き去りにされた地点から北東へ約5.5キロ離れた、陸上自衛隊駒ヶ岳演習場内で、別任務中に施設内を巡回していた自衛隊員が偶然に発見しました。
北海道は5月下旬でも夜間の気温は9度前後まで下がる日もあります。
行方不明の間には雨が降るなどと天候は安定せず、厳しい環境が続いていましたが、大和くんは思ったより衰弱しておらず、自分の名前を名乗ることはできる程度の状態でした。
なお、この演習場周辺には、4日前の5月30日にも捜索隊が入っていました。
約180人態勢で警察犬も投入されていましたが、演習場内部は捜索対象には含まれていませんでした。
まさに偶然の発見だったのです。
なぜ手間取ったのか
捜索が難航した最大の理由は、父親による当初の虚偽説明にあります。
当初、父親は警察に対し、「山菜採り中に息子とはぐれた」と説明していました。
おそらく、自分の行為は世間では認められないと解っていたと思われます。
しかし、この説明に基づき、捜索は「保護者の行動範囲内で迷子になった児童」を想定して行われ、結果として捜索範囲は限定されていきます。いずれにしても管轄が違うので、陸上自衛隊の演習場内部は捜索対象にはならないでしょう。
同日午後11時、一度捜索が打ち切られた後になって、父親が「しつけのために車から降ろした」ことを明らかにしました。それまでの説明との食い違いによって、初動捜索の前提条件そのものが誤っていたことになります。
「子どもだから遠くまでは移動しないだろう」という先入観も、捜索範囲の設定に影響した可能性が高いと考えられます。
大和くんの行動
大和くんは置き去りにされた直後、泣きながら歩き出したため、車を追いかけることはできませんでした。周囲は次第に薄暗くなり、山の中で方向感覚を失った結果、自分が進んでいる方向を把握できないまま移動を続けたと考えられます。
本人は後に「5時間くらい歩いた」と説明しています。この証言を踏まえると、夜間の山林をさまよった末、偶然にも自衛隊演習場の敷地内へ入り込み、最終的に発見された小屋にたどり着きました。
結果として、この小屋に入り込んだことが、生存の決定的な要因となったのです。
小屋の内部には、6枚から7枚ほどのマットが積み重ねられていました。
大和くん自身も「寒かったから寝るために入った」と話しており、マットとマットの間に体を入れることで、夜間の冷え込みから防ぐことができたとみられます。
また、小屋の前には蛇口が設置されており水分補給が可能ですが、食料はなく、彼は水だけで強い空腹に耐え続けました。
極めて危険な状況下にありながらも、偶然と環境条件が重なった結果、大和くんは命をつなぐことができたのです。
事件後の判断
父親は取材に対し、「愛情をもって育ててきましたし、今回このような事態になるとは考えていませんでした。息子のためを思っての行動でしたが、結果的に行き過ぎだったと深く反省しています」と述べています。
また、大和くん本人に対しては、「とてもつらい思いをさせてしまって、本当に申し訳なかった」と謝罪し、これに対し、大和くんは小さく「うん」とうなずき、その後、家族は日常生活へ戻ったと報じられています。
確かに昔は親から「しつけ」と称した横暴もあったでしょう。
しかし時代は変わり、現在このような行為は許されません。警察は両親を児童相談所へ通告すると、「心理的虐待に該当する」と判断しました。
父親が短時間で戻るつもりだったことや、大和くん本人が処罰を望まなかったことなどから、刑事事件としての立件は行われていなません。
場合によっては刑事告訴されても不思議ではありません。無罪ではなく立件不要とされたに過ぎないのです。
この父親の行為について、教育評論家は「悪いしつけの見本であり、虐待に該当する」とした上で、「虐待とは、子どものためと言いながら、実際には親自身の感情を満足させる行為である」と厳しい見解を示しています。
そもそも、子どもが納得していない状態で、恐怖や苦痛を与えて従わせることはしつけとは呼べません。
「言うことを聞かない子」という発想そのものが、子どもを理解する姿勢ではなく、支配したいという欲求から生まれるものであります。その背景には「自分が正しい」という意識があるため、子供が取った想定外の行動を受け入れられなくなるのです。
親が思い描く「良い子」と、子ども自身が感じる「良い子」は、必ずしも一致しません。
未成年である以上、子どもは保護者の庇護のもとで生活しますが、その対応を誤れば結果として深刻な事態へ発展するという典型的な事件です。


\ コメントくださ〜い /