城丸君事件の全容を解説

1984年、札幌市豊平区で小学4年生の城丸秀徳くん（当時9歳）が、行方不明になるという事件が発生しました。
電話が鳴り受話器をとった秀徳くんは、「ワタナベさんのお母さんが、僕の物を知らないうちに借りた。それを返したいから来てくれと言うんだ」という言葉を残し、自宅を外出。
そのまま姿を消し足取りも追えません。
そのあとワタナベ家の場所を尋ねられた女性の関与が浮上し逮捕されましたが、裁判では無罪判決が言い渡されました。

秀徳くんの身に何が起きたのか、この事件の結末はどのような決着を見せたのか。
この記事では、犯人が特定されたにも関わらず未解決となった「城丸くん事件」の全容を解説します。

事件概要

1984年1月10日午前9時35分頃、北海道札幌市豊平区に住む城丸隆さん（当時54歳）宅の電話が鳴り響きました。
受話器をとった次男の秀徳くんは、冒頭でお伝えしたとおりの言葉を告げて外出。
話を聞いた家族は意味を理解できず、不安を覚えた母親が長男にあとを追わせます。
しかし、追いかけた長男は「二楽荘」と呼ばれるアパートを左折した姿だけ確認し、そのあと見失ったそうです。

長男と母親が周辺を捜索するも発見には至らず、午後12時30分警察へ通報。
警察官の聞き込みから目撃情報が浮上し、ワタナベ家の場所を尋ねられた「二楽荘」2階の1号室に住む元ホステス：工藤加寿子（当時28歳）が秀徳くんと会っていたと。

加寿子は1カ月前までススキノにある高級クラブに勤務し、2歳の娘と一緒に暮らしていました。
彼女は「ワタナベ家を尋ねられたから、隣の家がワタナベさん宅と教えた」と証言し、あとのことは知らないと述べます。

警察は隣に住むワタナベ家に事情聴取しましたが、手がかりは得られません。
公開捜査後も発見できず、事件の幕は失踪という形で下ろされました。
ところが2年後の1986年5月、加寿子はお見合いで北海道樺戸郡新十津川町の自営業の和歌寿美雄さん（当時35歳）と再婚。
翌1987年12月30日午前3時、和歌さん宅から出火して母屋は全焼、焼け跡から和歌さんの遺体が発見されます。

その半年後、和歌さんの義理兄が焼け残った納屋を片付けポリ袋を見つけました。加寿子による放火を疑っていた義理兄は、ポリ袋の中に人骨を発見し警察へ連絡。ただし、当時のDNA鑑定で秀徳くんとは特定できていません。

時効2カ月前の1998年11月、秀徳くんの骨と断定され、加寿子は殺人罪で逮捕・起訴されました。

警察はなぜ加寿子を逮捕したのか

ここでは、逮捕の決定打と思われる3つの理由をお伝えします。

明らかに不審な動き

実は事件当日の夜、加寿子は近隣住民に大きな段ボールを抱えて部屋から出る姿を目撃されています。
さらに事件から1週間後に生活保護を申請し、3週間後の1984年1月26日にはアパートを転居。

確かに関係した子供が行方不明になれば、自分の娘が心配になり、この場所から引っ越しても不思議ではありません。
ですが当時から無職だったはず、なぜ事件から1週間後に生活保護を申請したのか。
急いで3週間後に引っ越さなければならない理由は何か。

借金

加寿子には多額の借金がありました。
客やホステス仲間、店舗や消費者金融から合わせて830万。
そのため秀徳くんを連れ去ったのは、身代金目的の可能性も考えられたのです。

秀徳くんの父親は、2つの会社の代表取締役。
自宅敷地は120坪、建物だけでも50坪あり、ポルシェやBMWなどの高級車を所有しています。
つまり資産家の息子に狙いを定め、お金をゆすり取ろうと企てたのかもしれません。

お見合い結婚

彼女は、華やかで派手な夜の世界を生きてきました。
お見合い相手は農業を営む男性。
加寿子は「農作業をやらなくて良い」と言われ、田舎へ引っ越しています。

彼女の生活は「昼まで寝て出かける」「ほとんど料理しない」「夫婦別の寝室と洗濯」「娘と札幌へ遊びに行き1週間は帰らない」という和歌さんが思い描いた結婚生活とほど遠いもの。

しかも和歌さんには1億9,000万円の生命保険がかけられ、受取人は加寿子。いくら子供が幼くても、一般人はこれほどの保険をかけません。貯めていた2,000万円も彼女が浪費しています。

そのため放火を疑った義理兄の直感は、当たっていたのではないでしょうか。
もちろん証拠はありませんが、秀徳くん誘拐も疑わざるを得なかった。
殺人罪での裁判は、これらの状況証拠や骨のDNA鑑定結果を提示しても無罪判決が下されました。

それはなぜでしょう？

罪状認否では「起訴状にあるような事実はない」と主張。
検察側の質問には「お答えすることは何もございません」と繰り返し、死因の特定が困難だったためです。

そして2001年5月30日、札幌地裁で無罪判決。
検察側は控訴していますが、2002年に棄却され上告が断念されたことで、同年3月28日無罪が確定しました。

約1カ月後の5月2日、彼女は札幌地裁へ拘束されていた928日分の日当と弁護士費用で合計1,160万円の支払いを請求。
11月18日、補償金として1,178万円支払われます。
従ってこの結果だけ見れば、警察の誤認逮捕と受け取られるかもしれません。

しかし、犯人は加寿子でほぼ間違いないでしょう。

その根拠は2つあります。

段ボール

部屋から運び出された段ボールは、彼女が嫁いだ和歌さんの畑で燃やされました。
このとき近隣住民は異臭を感じており、骨の件と合わせても段ボールには秀徳くんの遺体が入っていたと想定できます。

「遺体を入れた段ボールを運べるのか？」と思われるかもしれませんが、義理姉が車で迎えに来ていたのでそれを利用したのでしょう。
ちなみに義理姉とは再婚相手である和歌さんの身内と考えられますが、はっきり確認できる情報はありません。

仏壇へのお参り

彼女は和歌さんへ嫁いだあと、男児用の学習机やベッドカバーを買っています。
そのうえ毎日正座し、仏壇に手を合わせていました。
これが事実であれば、娘しかいない加寿子に男児用の物を買う理由はありません。

正座して仏壇に手を合わたのも、秀徳くんに対する罪悪感から生まれた行動と説明がつきます。
お金目当てならすぐ身代金を請求しますが、彼女は脅迫電話をかけていません。
おそらく金銭目的ですが、その電話をかける前に秀徳くんを手にかけた。
もしくは何らかの過失で、秀徳くんを死なせてしまった。

いずれにしても動機を証明できず、殺害したと立証できなかったことで無罪になってしまったのです。

結局どうなっのか？

彼女には和歌さんの生命保険が支払われておらず、死別したあと別の男性と3度目の再々婚。
しかし、その相手とも離婚し、現在はどこにいるか確認できません。無罪を勝ち取れたのは、検察側が証拠不足だったからです。

ただし、無罪と無実は違います。
罪として認定されなかっただけで、秀徳くんの命を奪ったのは加寿子と考えられるでしょう。

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