北海道大学を訪れたのは、8月の中旬でした。
ここが本当に札幌市内なのかと思うほど、キャンパスは深い緑に包まれていて、木陰に入ると空気がひんやりと感じられます。
夏の盛りだというのに、思わず深呼吸したくなるような心地よさ。
とはいえ、正直なところ少し緊張していました。
「大学のキャンパスって、勝手に入っていいものなのかしら」と、小心者らしい不安が頭をよぎったのです。
ですが、厳重な門があるわけでもなく、守衛に呼び止められる様子もありません。むしろ、学生とは思えない年齢の人たちが当たり前のように行き交い、全体にとても開放的な雰囲気でした。
これなら大丈夫そう。
そう自分に言い聞かせながら、私は北海道大学のキャンパスを歩き始めました。
まるで森の中にいるようなキャンパス
たぶん正門だろうと思われる入口からキャンパスに足を踏み入れて、目の前に広がっていたのは、有名なイチョウ並木。道の奥まで続く並木のスケールに、いきなり圧倒されます。
少し進んだところで、検問所のような場所を見かけました。
警備員の姿もあり、「ここで何か注意されるのでは」と内心ドキドキ。ですが、止められていたのは車だけで、歩いている人は完全にスルー。どうやら人は自由に通っていいようで、ひとまず胸をなで下ろしました。
それにしても驚かされたのは、その敷地の広さです。
札幌駅のすぐ近くとは思えないほど、街のざわめきが聞こえず、空気まで違って感じられます。
よくよく観察してみると、自転車で通り抜ける人や、ジョギングをしている人の姿が当たり前のようにあり、ようやく腑に落ちました。
ここは最初から開かれた場所なのだと。
大学のキャンパスというより、大きな市民の庭園に近い。そう感じた瞬間でした。
……などと呑気なことを考えていたのも束の間。気づけば、完全に迷子です。
ノープランで目的地も決めていないのですから、当然といえば当然ですよね。
このままさまっても仕方がないと思い、意を決して、通りがかりの話かけやすそうな学生さんに声をかけました。
どちらかと言うとコミュ障なので、「特に目的はないんだけど、どこかおすすめはあるかしら」と支離滅裂で漠然とした質問えおすると、学生は一瞬、「何この人」という顔をしましたが、ちゃんと答えてくれました。
「それなら、北海道大学総合博物館がいいですよ」
場所まで丁寧に教えてもらいながら、私は心の中で思うのです。
今の私、かなり不審者だな、と。
知的好奇心をくすぐる「総合博物館」
辿り着いたのが「北海道大学総合博物館」。
重厚なレンガ造りの建物が、いかにも北大らしい長い歴史をそのまま形にしたような佇まいです。
正直、入口の前で一瞬ためらってしまうほど、少し近寄りがたいほど荘厳さを感じてしまう反面、誰でも自由に入館できて、しかも無料。
嬉しい反面、「本当に入っていいの?」という気持ちも拭えません。
中に足を踏み入れると、無料とは思えない、というより、金額と展示内容がまったく釣り合っていません。
北大の歴史に始まり、かつての学生たちの研究資料、恐竜の化石、北方圏の動物標本まで、分野は実に多彩。
それぞれが丁寧に展示され、ただ並べてあるだけではない本気度が伝わってきます。
実際に触れられる展示や、研究室を再現したコーナーもあり、子どもから大人まで楽しめる構成になっているのが、流石としか言えません。
気づけば夢中になっている自分に気がつきます。
中でも強く印象に残ったのは、3階の収蔵標本の展示です。
標本とは、北大が研究や教材として長年にわたって集めてきたもの。その量と幅広さを前にすると、北海道大学という組織の底しれない知識への執念のようなものを感じてしまいます。
解説によれば、ここに並んでいるのはほんの一部だというのですから、正直、ドン引きです。
もしかすると、表に出せないものも有るのではないかと邪推してしまうのでした。
さらにこの建物、もともとは校舎だったそうで、廊下や階段のあちこちに古い学校独特の雰囲気が残っています。
人の気配が少ない場所では、静けさが妙に重く感じられ、なんとなく落ち着きません。
知的好奇心を刺激されつつも、どこかそわそわしてしまう。そんな自分の小心ぶりを自覚しながら、私は博物館を後にしました。
食堂で食べる「学食」がおいしい
せっかく北大まで来たのだから、少しだけ学生気分を味わってみようと、「学食」に行くことにしました。
博物館で勧められたのは中央食堂。
今回はちゃんと案内図を手に入れていたので迷わず……と言いたいところですが、実際には道路を挟んだ向かい側という、拍子抜けするほど近い場所にありました。
中に入ると、メニューには定食や麺類がずらり。
いかにも学生向けといったラインナップで、どれも無難そう、でも外しにくいメニューですね。
散々迷った末、私は定番のカレーに、サラダなどの小鉢をいくつか付けてみました。
ひと口食べて、思わず納得。特別に凝った味というわけではないのに、どこか懐かしくて安心する味です。
学食らしく値段も控えめで、ワンコインで収まるものが多いのも嬉しいところ。
学生時代だったら、これを贅沢だと思って通っていた気がします。
周囲を見渡すと、学生だけでなく地元の方らしき人の姿も目につきました。
観光客が立ち寄るのも、体験としてはなかなか面白いと思います。ただし、時間帯によっては学生以外が利用できない場合もあるそうなので、その点は要注意です。
食事を終えたあと、最後にどうしても気になってしまったのが、中央食堂入口にあるパン屋のソフトクリーム。
デザートにと購入すると、これが予想以上でした。濃厚なのに後味はすっきりしていて、ミルクの香りが口いっぱいに広がります。
観光地によくある「映え」を狙ったソフトクリームとは違い、余計な主張のない、そのまま牛乳の味。
正直に言ってあれを食べるためだけに、もう一度北大を訪れてもいい。そんなことを考えてしまいました。
北海道大学は魅力がいっぱい
北海道大学は、ただの大学ではありません。
歩いてみて分かったのは、ここが少し不思議で、かなり魅力的だということです。
豊かな自然に囲まれながら、知的な刺激もあり、食まで楽しめる。冷静に考えると、なかなか欲張りな場所です。
特におすすめなのは、夏から晩秋にかけてだと思います。
緑は深く、構内には川や池もあり、ただ歩いているだけで北海道らしさを実感できる、そんな印象でした。
今回は完全にノープランでしたが、後からガイドマップを眺めてみると、敷地内には想像以上にスポットが点在しています。食に関する施設、文化や歴史を感じる建造物、自然、そして定番のクラーク像。
選択肢は多いですが、敷地がとにかく広すぎて、一日ですべて回るのはまず無理です。体力的にも、それなりの覚悟が必要でしょう。
実際、今回は博物館を見て、学食でご飯を食べただでも、普段ほとんど運動しない私にとっては、かなりの重労働でした。
「ちょっと寄ってみただけ」のつもりが、思った以上に歩かされる。ここはそういう場所だと思います。
ジョギングしている人の気持ちが解るような、それだけ運動にもなるのです。
だからこそ、行くなら事前準備がおすすめ。
あらかじめガイドマップを手に入れて、興味のある場所を絞って回る。それだけで、下手な観光地に行くより、ずっと満足度の高い時間が過ごせます。
※画像はイメージです。


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