歴史からひも解く北海道とヒツジの関係

山や海と大自然に恵まれた北海道にはいくつもの美しい草原がひろがっています。そこにはたくさんのヒツジたちが暮らしています。
北海道のヒツジ飼育頭数は日本で1位。その数は1万頭を超え、全国の約8割を占めています。
本記事では北海道で暮らすヒツジたちの歴史と文化、料理など、ヒツジにまつわる出来事をご紹介します。

目次

なぜ、北海道にヒツジが定着したのか?

北海道といったら草原をイメージするかたも少なくないのではないでしょうか。そんな草原にはたくさんのヒツジたちが自由気ままに暮らしています。
ご存知のとおり、ヒツジは日本の野生動物ではありません。はじめてヒツジが日本に渡ってきたのが西暦599年といわれています。しかし、そのあとヒツジが家畜動物として日本に根づくことはありませんでした。

では、どうしてヒツジは北海道に定着したのでしょうか。北海道とヒツジの歴史を参考にひも解いていきましょう。

北海道にヒツジが定着した主な理由として以下の3つが考えられます。

気候

もともと北海道は冷涼な気候の土地です。そのため、ヒジツを飼育する環境として最適でした。ヒジツは暑さに弱い動物ですが、北海道の夏は全国的にみても気温は低いです。くわえてヒツジは寒さに強い動物ですのできびしい北海道の冬のなかでも飼育することができたと考えられます。

広大な土地

北海道には広大な牧草地が広がっています。豊富な牧草地は草食動物であるヒツジを飼育、放牧するのに最適な環境です。

めん羊100万頭計画

北海道にはじめてヒツジがやってきたのは今から166年前の安政4年のことでした。当時、箱館奉行所にて10頭のヒジツが飼育されたのがはじまりです。

明治7年

東京からサウスダウンというイギリス種のヒツジが約50頭、北海道へ移されることになりました。ここから北海道で本格的なヒツジの飼育、放牧が開始されます

明治9年

アメリカからやってきたエドウィン・ダンという獣医師によるヒツジの飼育管理、品種改良、農機具の使用方法などの指導を受けて北海道の牧場事業は強化されていきます。
エドウィン・ダンはヒツジ飼育のほかにも北海道の酪農、農業の発展に多くの功績を残し、「酪農の父」と呼ばれています。

明治39年

伝染病などの影響により一時中止されていた放牧事業計画が再会。日本政府は北海道の「月寒」と「滝川」の2か所に牧場を開設します
牧場では研究、増産、そのほか数頭単位でヒツジを飼育する方法が確立されていきました

大正3年

第一次世界大戦が勃発し、国外からの衣料の調達がむずかしくなった日本は、国内で羊毛をまかなわなくてはなりませんでした。羊毛は保温や撥水にすぐれており、軍服をつくるのに欠かせない材料だったのです。

大正7年

政府は “めん羊100万頭計画” を掲げ「月寒」「滝川」にてヒツジの育成に注力します。第一次世界大戦の不況によって “めん羊100万頭計画” はうまくいかずに終わってしまいましたが、これをきっかけに北海道にヒツジが定着していきました。

大正13年

国内ではじめてホームスパン(イギリス発祥の毛糸を用いた手織物)がつくられます。

昭和10年

北海道第二期「拓殖計画」が見直されます。滝川の種羊場にて毎年のように100頭のヒツジを輸入し、研究、改良がおこなわれました。

昭和20年8月

終戦を迎えた日本の牧場に機構改革がおこり、種羊場(優良なヒツジを飼育し農家に貸しだす施設)はすべて廃止となります。終戦から数年後にはオーストラリアなどから羊毛を大量に輸入する運びとなりました。ヒツジたちは羊毛から、羊肉へ。その目的を変えていったのです。

こうして北海道とヒツジの歴史は深く、追っていけばいくほどさまざまな面が見えてきます。いまでこそ北海道といえばヒツジ。ヒジツといえば名物「ジンギスカン」と、ごく当然のように紐づけて考えてしまいがちですが、じつはヒツジは食べるためではなく「羊毛」のために輸入され、たいせつに飼育されてきた動物だったわけですね。

北海道とジンギスカンの関係

現在では知らないひとのいない羊肉を使用した北海道の名物料理「ジンギスカン」と、その由来についてご紹介していきます。

北海道はジンギスカン料理の発祥地?

前述したように北海道へヒツジがやってきた理由は「食べるため」ではなく、あくまで軍服など防寒着をつくるための「羊毛」が必要だったからでした。しかしその後、輸入などにより北海道のめん羊は必要なくなっていったのです。そこで北海道は残された大量のヒツジを「食用」として飼育することにしました。

そうはいっても当時のヒツジ肉は臭みが強く、クセがあります。また庶民のひとたちの舌に馴染んでおらず、ヒツジ肉を好んで食べるひとは少なかったといいます。なんとかしてヒツジ肉を食べてもらおうと力を注いでいましたが、ヒツジ肉はなかなか定着しませんでした。

昭和11年当時、札幌では肉を焼いたあとにタレをつけて食べていましたが、昭和31年に滝川でタレに付けこんでからヒツジ肉を焼く「滝川式」のスタイルが誕生したことによって、ジンギスカン料理は道民のあいだに定着していきました。また、当時のヒツジ肉が比較的安価だったことも、ヒツジ肉(ジンギスカン料理)が定着していった理由のひとつといわれています。

このように数々の努力のすえにジンギスカンは北海道の郷土料理として多くのひとに親しまれるようになったのです。もちろん現在では、道民だけでなく観光客のあいだでもジンギスカンは人気となっています。
中でも北海道、北村は「純国産ホームスパン/ジンギスカン料理発祥の地」として有名です。大正13年当時、北村農場で生産された羊毛は質が高い純国産ホームスパンとして全国に名を知られるようになったのがきっかけとされています。

ちなみに、ジンギスカン料理が人気となった現在、日本で消費されているヒツジ肉の約3割が北海道を占めています。残りの7割はオーストラリアなどから輸入されている事実からもヒツジ肉の需要が高まったことがわかります。

ジンギスカンの由来

「ジンギスカン」の由来は所説ありますが、名付け親となったのは当時の満州鉄道株式会社、調査部長である「駒井徳三」という説がもっとも有力といわれています。

栄養満点ジンギスカン料理

ジンギスカンは北海道を代表する郷土料理ですが、その栄養が高いことでも注目を浴びています。ジンギスカン料理に使用されるヒツジ肉は大きくわけて「ラム」と「マトン」肉があります。

  • ラム 生後1年未満の子ヒツジ肉
  • マトン 生後1年以上のヒツジ肉

とくにラム肉は栄養価の高い食材として知られています。ラム肉にはタンパク質、鉄分、亜鉛などの栄養素が豊富に含まれており、ジンギスカン料理は健康にも良い食べものとして近年ますます人気を高めています。

また、ジンギスカンの食べかたは各地域によっても異なります。肉を焼いたあとにタレをつけて食べる「札幌式」と、肉をタレに漬けこんで調理する「滝川式」とがあります。

観光資源としてのヒツジ

これまで北海道とヒツジ、ジンギスカンとの関係についてご紹介してきました。ここでは現在の北海道に欠かせない観光資源となっているヒツジたちについて触れたいと思います。

現在、北海道にとって広大な草原やヒツジは観光の目玉として人気のひとつです。北海道におとずれたらヒツジを目で見て、触れ、体験することも忘れてはいけません。
下記に北海道でオススメのヒツジがいる牧場をご紹介します。

さっぽろ羊ヶ丘展望台

北海道札幌市にある「さっぽろ羊ケ丘展望台」は、明治39年に農商務省月寒種牛牧場として開拓された歴史ある牧場です。
広大な牧草地には約100頭のヒツジが放牧されており、たくさんの観光客に評判です。またイベントも充実しており「ヒツジのショー」や「エサやり体験」など季節によってさまざまな体験をすることができます。

中でも「羊のおさんぽレース」や「縁日」といったイベントは子どもの自由研究にぴったりといわれています。

羊と雲の丘

北海道士別市にある「羊と雲の丘」のご紹介です。
広い放牧地にサフォーク種(オス、メスともに角がないイギリスサフォーク州原産のヒツジ)が50頭ほど放牧されています。ヒツジたちの自由気ままな姿を見て癒されることまちがいありません。また、ヒツジたちにエサをあげることも可能です。
(例年4月末〜10月末/詳しい放牧期間は公式サイトにてご確認ください)

さらに敷地内にある「世界のめん羊館」では季節に関係なく、13種のヒツジたちと触れあうことができます。レストランも併設されており、さまざまなジンギスカン料理が堪能できるのも人気のひとつです。

えこりん村 みどりの牧場

北海道恵庭市にある「えこりん村 みどりの牧場」では、ヒツジのほかに

  • アルパカ
  • リャマ
  • ミニチュアホース

といった動物たちに会うことができます。ヒツジ、アルパカ、ミニチュアホースを間近で見ることができるのでとてもオススメです。

また、牧羊犬とハンドラーが一体となってヒツジの群れを連れるイベントが毎日開催されています。(詳しくは公式サイトをご確認ください)。
動物たちがのびのびと歩く「みどりの牧場」では、5頭のヒツジたちが繰り広げる「ひつじレース」を見ることができます。

ヨークシャーファーム

札幌から約2時間というアクセス良好な立地にある「ヨークシャーファーム」はサホロ川沿いにある10ヘクタールの羊牧場です。春から秋にかけて約200頭のヒツジが放牧されています。農場の中にちいさなペンションとレストランがあり、宿泊施設としても人気です。

360度、見渡す限りみどりに囲まれた牧場で、野の花や昆虫、野鳥にリスにキツネと、北海道の動植物たちが暮らしています。
イベントとして「羊飼い体験」があり、子ヒツジのお産のお手伝い、子ヒツジへのミルクやり、毛刈りなど、普段なかなか経験することのできない羊飼いのお仕事を体験することができます(毛刈りはゴールデンウイーク限定)。

ルスツファームひつじひろば

北海道虻田郡留寿都村にある「ルスツファームひつじひろば」は北海道内の2か所でしか飼育されていないヒツジ界のサラブレッドと呼ばれている「テクセル種」を飼育している農場です。

「ヒツジ放牧エリア」ではヒツジたちの様子をのんびり眺めることができます。さらにヒツジに触れ合える「特別エリア」が登場。じっさいにヒツジに触れたり、写真を撮ったりと、わくわくがとまりません。
ほかにも「シープドックショー」など期間限定イベントも開催されているので、ぜひチェックしてみてくださいね。
(ヒツジの見学は「ひつじひろば」のみとなっています)

このようにヒツジは「めん羊」「食用」「観光」と、過去から現在にかけて北海道になくてはならない存在、北海道を支えている動物となっているのです。

いかがでしたでしょうか?

北海道で暮らすヒツジたちの歴史と、文化、ジンギスカン料理など、ヒツジにまつわる出来事をご紹介してきました。
いまでこそ「ヒツジ=ジンギスカン」として定着していますが、過去を辿るとヒツジ飼育の目的は「羊毛」であったことがわかります。
食べるためではなく、羊毛として飼育されていたというわけですね。

羊毛が必要でなくなっても諦めず、ヒツジを飼育・研究・たいせつに育ててきた北海道とヒツジは切っても切れない関係にあるのだなとあらためて実感しました。
また、現在こうして日本でヒツジを飼育できているのは北海道と、ヒツジ飼育に関わってこられた方たちの努力の結晶なのだとも感じています。

さいごまでお読みいただきありがとうございました。

※画像はイメージです。

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