国内では北海道でしかお目にかかることのできない貴重な海鳥「エトピリカ」。
特徴や生態、エトピリカが絶滅に瀕している理由とその対策、どこでエトピリカを見ることができるのか、おすすめスポットと知ってたのしい豆知識をご紹介します。
エトピリカとは?
エトピリカはウミスズメの仲間の海鳥です。
体長約39センチ、体重800グラムほどのエトピリカは、アイヌ語で「美しい鼻(くちばし)」を意味しているほど緋色の美しいくちばしを持っています。顔と足を除く全身は黒い羽毛でおおわれ、冬と夏では顔まわりの色味が変わってきます。またエトピリカの足はくちばしと同様、濃いオレンジ色をしています。
なめらかで平たいくちばしと目のうしろから黄色の飾り羽が特徴のエトピリカは、日本では北海道限定でごくわずかに生息していることが知られています。
エトピリカの生態
エトピリカの繁殖期は4月から8月にかけてで、その時期に限り、天敵の少ない岸壁で巣をつくります。多くはくちばしと足で地面に穴を掘って営巣しますが、自然にできた岩場の隙間を利用するケースもあります。5月から6月に1つの卵を産み、オスとメスが交代で抱卵。孵化してから巣立ちまでの期間はおよそ45日といわれています。
エトピリカは1年のほとんどを陸地のない外洋で過ごし、捕食時には水深約40メートルまで潜水することが可能です。食性は主に魚類や甲殻類で、ヒナ鳥にはニシンなどの小魚やイカを与えることが知られています。
分布
北太平洋に分布しています。約300万羽が生息しているとされていますが、現在その数は減少傾向にあります。日本では北海道のみで生息が確認されています。
なんだこの鳥は!知ってたのしいエトピリカの豆知識
この章ではエトピリカの興味深い生態や、ちょっと意外な形体についてお話しさせていただきます。
ちょっと意外な鳴き声
突然ですが、皆さんはエトピリカの鳴き声を聞いたことがありますか?
筆者もはじめてエトピリカの声を聞いたのですが、想像していたよりもはるかに意外な鳴き声をしていました。
いかがでしょう?
低い声で鳴いているのが聞こえたかと思います。
鳥というよりは、どちらかというと牛を彷彿させるような声を持つエトピリカでした。
かっこいい別名
先ほども少し触れましたが、エトピリカは夏羽と冬羽で印象が変わります。冬羽が茶褐色なのに対して、夏羽は目のうしろの淡い黄金色の飾り羽が伸び、なんともいえない雅な姿に。さらに顔のまわりが白く変わり、まるで南国の鳥さながらのメリハリのあるカラーに変身します。
ちなみに白塗りの顔に濃い紅をさしたようなエトピリカは、別名「花魁鳥(おいらんちょう)」と呼ばれています。
エトピリカとアイヌ
エトピリカはetu(くちばし)pirka(美しい)と書き、アイヌ語に由来しています。このようにアイヌ語に由来した生きものは意外にも多く、有名なことろでは「ラッコ」や「シシャモ」「トナカイ」などがあげられます。
また、美しいカタチを意味する「ピリカノカ」など、エトピリカの”ピリカ”は地名としても使われています。お気づきの方もいるかもしれませんが、北海道産のお米「ゆめぴりか」のピリカもこれに由来しています。
インパクトありすぎ!エトピリカのくちばしが・・・
エトピリカのくちばしが美しい緋色であることは先ほども述べたかと思います。が、エトピリカのくちばしにはそのほかにも特徴があったのです。
少し信じがたいですが、なんと、エトピリカのくちばしは外れます。
ええ? 取り外し可能なくちばしってこと?
そう思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、さすがに取れたくちばしを戻すことはしません。
じつは、エトピリカのくちばしは繁殖活動を終えるとともに、抜け落ちる仕組みになっているのです。これは春になるとくちばしを覆う表面組織が角質化し、しだいに爪のような硬い組織に変わるためです。このくちばし(角質)が繁殖期が終わると取れ、下からあたらしいくちばしがあらわれるというわけです。
これほどきれいに外れるとなると、飾りをつけているのかなと思ってしまいますね。美しい色味のくちばしだからこそ、よけい印象に残ります。
北海道限定で見られる貴重な鳥
日本国内では北海道にのみ生息しているとご紹介したエトピリカですが、2024年現在は北海道でも道東の一部のエリアにしか生息していないとされています。まさに貴重な鳥なわけですね。
現在、観察地として知られているのは、北海道釧路エリアと限定されています。
北海道釧路と根室のあいだに位置する霧多布湿原(きりたっぷしつげん)は、北海道でゆいいつ陸からエトピリカを見ることのできるスポットです。
とはいえ、霧多布湿原は約3000平方メートルの面積を有する非常に広大な湿原。どこを探したらエトピリカを見つけることができるのか気になりなるところです。
しかしご安心ください。
きちんとチェックポイントがあります。
島の左側に位置する海上です。そこを目印に望遠鏡などを覗いてみてください。また、6月から7月にかけてがエトピリカを最も観測しやすい時期ですが、この時期になると、海面にデコイが設置されます。ぜひデコイを目印に周辺を探してみてください。エトピリカを見つけることができるかもしれません。
おすすめの時間帯は、朝もしくは夕方です。
エトピリカの減少理由と、北海道の取り組み
現在、地球上において絶滅危機に瀕している生きものは約4万種以上とされています(国際自然保護連合IUCNによる)。そして、残念なことにこの中にエトピリカも含まれています。
エトピリカは環境省レッドリストでは絶滅危惧種IAと、絶滅の危険性がきわめて高いとされている海鳥です。さらに現在、エトピリカの生息地は減少傾向にあります。
- 1960年 北海道の島々にも数百羽のエトピリカが繁殖をしていたといわれています。
- 1970年 250羽生息していたとされるエトピリカの数は一気に減少し、100羽ほどに。
- 1990年 ついに20羽ほどまで減ってしまいました。
・・・・そして2024年現在においては、北海道モユルリ島、ユルリ島がエトピリカの主な繁殖地です。
エトピリカの絶滅危機の要因をまとめると以下のとおりです。
- 繁殖地周辺でおこなわれる混獲
- 沿岸海域におけるニシン、イカナゴ等の減少
- 外来種による捕食
- 気候変動による海洋環境の変化
- 原油の流出などによる海洋汚染
このほか、ドブネズミが大量発生したことによる問題もあります。ドブネズミは、エトピリカの卵を食べてしまいます。
こうしたエトピリカの個体数減少を受けて、環境省では北海道釧路市でエトピリカ保護増殖検討会を開き、生態調査や保護増殖に向けた取り組みを専門家へ報告しました。
検討会では、モユルリ島、ユルリ島でオジロワシが増加していること、それがエトピリカの繁殖に影響を与えている可能性があるとの意見があげられました。
環境省はエトピリカの保護と今後の取り組みについて、繁殖状況調査のほか、外来ネズミへの警戒と対策、オジロワシなど大型鳥類による捕食対策などを進めていく方針です。
また、回復状況をモニタリングすると同時に、エトピリカの繁殖期にデコイを設置し、誘導するなどの対策もおこなっています。
いかがでしたか?
北海道で会うことのできない貴重な海鳥、エトピリカのおもしろい特徴や興味深い生態を知っていただけたかと思います。美しいくちばしと飾り羽を持つエトピリカ。その色彩豊かな容姿とは裏腹に、かれらの鳴き声は筆者の想像を軽く超えておりました。さらに驚くのがくちばしですね。
まさか外れるなんて……!
その驚きにいろいろな方面から調べてみたところ、一部の海鳥は繁殖期が終わると角質化したくちばしが外れるらしいです。
へえ!知らなかった!
と、ひとり感嘆に浸ってしまいました。なんでも、水族館でお馴染みのペンギンもくちばしが外れるのだとか。
やはり、生きものの世界は奥が深いですね。
さて、エトピリカですが、ただでさえ個体数の少ないかれらは、最近では、そのつがい数も一桁にまで減少してしまいました。せっかく国内でエトピリカに会えるのですから、今後の保護活動に期待したいところです。
さいごまでお付き合いいただきありがとうございました。
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