アイヌに伝わる民話の絵本「カムイ・ユーカラシリーズ」には、動物の神々が登場します。
今回は、北海道に渡ってくるオオジシギの失敗を描いた絵本のご紹介です。
神々を代表して人間の国へ
オオジシギという鳥をご存知でしょうか。春になると北海道や東北に飛来し、子育てを終えて秋にオーストラリアへ帰っていく渡り鳥です。オスは縄張り内を鳴きながら飛んだ後、羽音を立てて急降下するという特徴があります。
このオオジシギが、今回ご紹介する絵本の主人公です。
その鳴き声は、絵本の解説で「ズビヤク、ズビヤク」と表記されていますが、アイヌ語でオオジシギのことを意味する「チピヤㇰ」の由来になったといいます。
オオジシギの神チピヤㇰカムイは、空の彼方の神の国で、神々とともに暮らしていました。神々の間で人間の国が話題に上るようになり、人間の国を見に行こうということになったのですが、神々は仕事があるため、なかなか叶いません。
そこで、空を自由に飛び回ることのできるチピヤㇰカムイが代表で見てくることになります。
人間の国へ下りていったチピヤㇰカムイ。そこは、とても美しくすばらしい場所で、チピヤㇰカムイは、時間を忘れて楽しみます。
やがて、冬が訪れ、チピヤㇰカムイはやっと神々に頼まれて来たことを思い出したのでした。
急いで神の国へと戻っていったチピヤㇰカムイでしたが、怒った神々に傷つけられ、追い返されてしまいます。
チピヤㇰカムイは、人間の国で冬を過ごし、春になると再び神の国へ帰ろうとするのですが、また怒られたらと怖気づき、引き返してしまうのでした。
チピヤㇰカムイの失敗
出かけた先が楽しくて帰りたくなくなってしまうのは、よくあることですね。うっかりではすまないくらい長い時間を、チピヤㇰカムイは人間の国で過ごしてしまいます。
その結果、神々の怒りに触れ、傷を負わされてしまうチピヤㇰカムイ。それだけでなく、落ちていったのは、緑豊かで食べ物も豊富な人間の国ではありませんでした。そこはもう雪に覆われた凍てつく大地だったのです。チピヤㇰカムイは、薬草を探して、冬を乗り越えました。
やがて春を迎え、傷も癒えると、チピヤㇰカムイは、再び神の国へ向かおうとします。ところが、またひどい目に遭うのではと恐れ、たどり着くことはできませんでした。
何度も何度も、行っては戻り……オオジシギが羽音を立てて急降下をする理由にそんな意味があったのかと思うと切なくなってしまいます。
これには教訓が込められ、チピヤㇰカムイはラストで「頼まれたことは忘れてはいけない」と語っているのです。
厳しくて、ちょっとかわいそうな気もしますね。
そんな悲しい民話が残されているオオジシギですが、力のある幸運の鳥とも考えられていたようですよ。また、薬としても活用されていたのだといいます。
アイヌの人たちにとって、身近でとても大切な鳥だったのでしょう。
版画で描かれた北海道の四季
「カムイ・ユーカラシリーズ」は、木版画家・絵本作家の手島圭三郎さんとアイヌ文化研究者の藤村久和さんによって書かれた版画絵本です。
「カムイ・ユーカラ」というのは、カムイ(神)自身が語り手となっているアイヌの口承文芸で、「サケへ」と呼ばれる繰り返しの言葉が使われているのが特徴です。
サケへはカムイ・ユーカラごとに異なり「チピヤㇰカムイ」では「ハンチピーヤㇰ チピーヤㇰ」という言葉で表されています。絵本では一部にしか使われていませんが、本来は全節で謡うように繰り返されるようです。
「チピヤㇰ」がアイヌ語でオオジシギの鳴き声から来ているとのことなので、このサケへも鳴き声をイメージしたものなのでしょう。
絵本を読んでからオオジシギの声を聞くと、特徴ある鳴き声も、もの悲しく聞こえるかも知れませんね。
チピヤㇰカムイが下っていったのは、色とりどりの花が咲き乱れる春の大地でした。この絵本では、夏から秋へ、そして冬へと移り変わる北海道の大自然が、鮮やかな版画で描かれています。季節ごとの描写が美しい絵本です。
アイヌの人々が愛し敬ってきたこの壮大な北海道の大自然が、いつまでも変わらないことを願ってやみません。
(C)「チピヤㇰカムイ~神々の物語~」藤村久和 文・手島圭三郎 絵 絵本塾出版


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