野付半島に存在する「トドワラ」は、幻想的な風景として語られることが多い。
しかし、この景観は偶然や神秘の産物ではなく、地形変動と海水浸入という自然現象の結果であり、現在進行形で消失しつつある。
トドワラとは何か
トドワラは、野付半島の先端部付近に広がるトドマツの立ち枯れ群である。
野付半島は砂嘴と呼ばれる堆積地形で、地盤が不安定かつ沈降しやすい特徴を持つ。20世紀後半以降、地盤沈下と高潮、海面変動の影響により、かつて陸地だった場所へ海水が浸入した。その結果、淡水環境で育っていたトドマツ林が塩害によって枯死し、現在のトドワラが形成された。
かつては広範囲に立ち枯れが見られたが、潮流と風雪による倒壊が進み、年々本数は減少している。現地のネイチャーセンターでも「昔はもっと木が立っていた」という説明がなされており、これは体感的な印象ではなく、実際の減少傾向と一致する。
アクセスと道程
筆者は北見市からバイクで野付半島を目指し、網走から小清水、斜里町を経由し、標津町へ向かう海岸線ルートを選択した。
この区間は人家が徐々に減り、特に斜里町以東では交通量も少なく、景観の変化が顕著になっていく。
標津町を抜けると野付半島へ入る一本道が現れる。道路の両側は海に挟まれ、人工物はほとんど存在しない。
天候条件が良ければ、国後島方面を視認できることもある。
直線道路は、日常から切り離されていく感覚を覚える。
ナラワラからトドワラへ
トドワラ手前には「ナラワラ」と呼ばれる立ち枯れ群が存在する。こちらはミズナラを主体とした枯死林で、トドワラとは樹種も成立過程も異なるが、同様に塩害と地盤変動の影響を受けている。
ネイチャーセンターで車両を降り、木道を徒歩で進むと、湿原の中に白く風化したトドマツの立ち枯れが現れる。現在は立ち入り制限区域も多く、保全と安全確保の観点から、観察は指定ルートに限られている。
現在進行形で失われる風景
トドワラは「いつ行っても同じ景色」ではない。
倒木は毎年確実に増え、数十年前の写真と現在を比較すると、その差は明確である。つまりこの風景は保存された遺構ではなく、自然の力によって変化し続ける過程そのものだ。
「幻想的」「終末的」と表現されがちだが、実態は極めて物理的で、因果関係の明確な現象である。
事実を理解した上で現地に立つと、見えてくるものは大きく変わる。
この風景は、いずれ消える。
だからこそ、感傷ではなく記録として向き合う価値がある。


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