北海道の大自然を繊細な版画で描いた「北の森の動物たち」シリーズの1冊。厳冬の森の中で、きたきつねが過ごした幻想的な一夜の物語です。
1匹のきたきつねが見た夜の物語
絵本の表紙に描かれているのは、雪深い森を背に立つ1匹のきたきつねです。こちらを向いてしっかりと大地を踏みしめる姿には、力強さを感じます。
舞台は北海道の山の中。静寂に包まれた、凍てつく冬の夜。月が顔を出すと、風景が一変します。遠くの山は青く輝き、森の中にも光が広がって、木々の影がのびてゆきました。
月明かりの中で動いていたのは、お腹をすかせたきたきつねでした。きたきつねは、ゆきうさぎの足跡を見つけて後を追いますが、逃げられてしまいます。
きたきつねは、岡の上から不思議な光景を見ました。凍りついた木々が月明かりに照らされて、きたきつねの親子のように見えたのです。楽しかった子どもの頃に想いを馳せているうちに、辺りは明るくなっていき、いつしか不思議な光景も消えていました。
朝陽があたる雪原できたきつねを待っていたのは、1匹のきつねとの出会いでした。
北海道の大自然を版画で描いた「北の森の動物たち」
「きたきつねのゆめ」は、「北の森の動物たち」という版画絵本シリーズの1冊です。
作者は北海道紋別市出身で江別市在住の木版画家・絵本作家、手島圭三郎さん。「北の森の動物たち」以外にも、北海道を題材にした多くの絵本を手掛けています。
受賞歴も多数で「きたきつねのゆめ」はイタリア・ボローニャ国際児童図書展グラフィック賞を受賞しました。また、ニューヨークタイムズ紙選世界の絵本ベストテンにも選出されています。
この絵本の魅力は、あたかも目の前に北の大地が広がっているかのような臨場感です。木々の枝や幹、遠くの山々、月明かりにのびる影など、すぐ手の届く場所に存在しているようで、肌が冷たく澄んだ空気に触れているようにさえ思えます。
きつねやうさぎの動きは生き生きとしていて、躍動感にあふれています。被毛の1本1本の流れや、瞳の輝きには命のあたたかさが感じられます。どのページを開いても、息をのむ美しさです。
特にきたきつねが春や夏を回想するシーンは鮮やかな色が使われていて、深く心に残ります。
厳しくも優しく美しい野生の世界
自然は厳しい。特に北海道の冬の夜は、そこに棲む動物たちにとっても、試練のときに違いありません。
絵本に登場するきたきつねのように、お腹がすいても、獲物が簡単に捕まるわけではないでしょう。
狩りに失敗し、幻想を見て家族のことを思い出すひとりぼっちのきたきつねの姿には胸が痛くなります。しかし、やがて夜は明けます。そして、冬は去り、春がやって来ます。命に満ちあふれた、輝かしい季節がめぐってくるのです。
お腹をすかせたひとりぼっちのきたきつねは、夜明けを迎えた雪原で、新たな仲間と出会いました。
2匹は恋をし、自分たちの家族を築くことになるのでしょう。
最後の一文に、心がほっこりとあたたかくなります。
ぜひ、実際に絵本を開いてみてほしいと思います。子どもたちだけでなく、おとなも静かな感動にひたれる絵本です。最後までゆっくりと、味わってみて下さいね。
「きたきつねのゆめ」(C) 手島桂三郎 リブリオ出版


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