動物の神々が登場する「カムイ・ユーカラシリーズ」はアイヌに伝わる民話の絵本です。欲を出して失敗する、人間のようなカムイたちが大切なことを教えてくれます。
年老いたうさぎの神が見たものは?
年を重ねると、体の機能が衰えてきます。特に、眼が悪くなるのは不便なものですね。それは、アイヌの神「カムイ」も同じようで、この絵本は、自分の見間違いに振り回されてしまう老うさぎのおはなしです。
年を取ったうさぎの神「イソポカムイ」は、春のある朝、若い頃のように遠くまで行ってみたくなりました。
そこで丘を下り、海辺へ行きます。すると、砂浜に大きなクジラが上げられているのが見えました。
人間たちがクジラの肉を運んでいるのを見たイソポカムイは、手伝ってやろうと近づいていきます。
ところが、それはクジラではなく、浜に打ち寄せられたゴミの山だったのです。人間だと思っていたものは、カラスやカモメでした。
遠回りをして帰る途中、今度は川の中でけんかをしているふたりの人間を見つけます。けんかをやめさせようと川に入ったイソポカムイでしたが、それも見間違いでした。
冷たい水に濡れて家に家に帰りたくなったイソポカムイ。自宅に戻ってみると、大変なことが起こっていて…。
カムイを通して語られるアイヌの教え
「カムイ・ユーカラ」というのは、カムイ自身が語り手となって自分の体験を語る物語です。
北海道の先住民族であるアイヌには、文字の文化がありません。そのかわり、口承文芸によって多くの民話を語り継いできました。カムイ・ユーカラもそのひとつです。ただの昔話としてだけでなく、そこには様々な教えがこめられています。
「イソポカムイ」では、高齢であるにもかかわらず、穏やかな日々を抜け出してちょっとした冒険に出かけてしまううさぎの神の失敗を描いています。
失敗といっても、視力が弱くなった自分自身の見間違いによるもの。「あらあら」という感じでちょっとほほ笑ましくもありますね。
イソポカムイは、最後に自分の家が燃えていると慌ててしまうのですが、結局はそれも見間違いでした。自分自身に振り回されてしまったのです。
ぐったりして、みじめな思いで帰ってきたイソポカムイでしたが、それからは子どもや孫たちに囲まれてのんびり暮らしたようです。この物語では「年を取ったら無理をするな」と教えています。
神々の失敗を描いた絵本「カムイ・ユーカラシリーズ」
「イソポカムイ」は、版画絵本「カムイ・ユーカラシリーズ」の1冊です。絵は木版画家・絵本作家の手島圭三郎さん。文は、アイヌ文化研究者の藤村久和さんです。
「カムイ・ユーカラシリーズ」は全5冊。それぞれオオジシギやトドなど、動物のカムイが主人公で、カムイたちが欲を出しては失敗を招いてしまう物語になっています。
イソポカムイは、最終的には幸せに暮らせたようですが、取り返しのつかない失敗をしてしまうカムイもいます。滑稽であると同時に、ちょっと切なくもなりますが、そこには、教訓がこめられているのです。
絵本では、雄大な自然の風景と、躍動感ある動物たちが版画で描かれています。ページをめくるごとに、息を吞むような美しい世界が広がっています。
「イソポカムイ」は「カムイ・ユーカラシリーズ」の中では軽快で愉快なおはなしなので、小さな子どもへの読み聞かせにもおすすめです。イソポカムイが勘違いしてしまったとわかるシーンでは笑いを誘うことでしょう。
カムイ・ユーカラにはアイヌ語で「サケへ」と呼ばれる言葉が出てきます。基本的にはカムイ・ユーカラ1編にひとつのサケへが使われているそうです。
「イソポカムイ」には、「ホーリㇺリㇺ、ホーリㇺリㇺ」というサケへが冒頭と最後に出てきます(本来は全節で繰り返され、謡うように語るそうです)。
読み聞かせをしながら、一緒に「ホーリㇺリㇺ、ホーリㇺリㇺ」と言ってもらうのも楽しいかも知れませんね。
「イソポカムイ~神々の物語~」藤村久和 文・手島圭三郎 絵 絵本塾出版


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