ふくろうが語る悲しい絵本「エゾオオカミ物語」

北海道が舞台、あるいは、北海道出身の作家さんが書かれた童話や絵本は数多くありますが、今回はあべ弘士さんの「エゾオオカミ物語」をご紹介します。

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元動物園飼育係が描く動物絵本

あべ弘士さんは、旭川市の旭山動物園で25年間勤務経験のある絵本作家さんです。「あらしのよるに」シリーズ(きむらゆういち・文)の作画というと、ピンとくる方も多いのではないでしょうか。

あべ弘士さんは、動物園で飼育係として勤務しながら絵本の制作を始め、後に動物園を退職。絵本作家となります。130冊を超える絵本を手掛け、そのほとんどが動物の絵本です。

迫力がありながらどこかユーモラス、それでいて動物たちの細部まで知り尽くしたあべ弘士さんが描く動物たちは、息遣いを感じるようなリアリティがあります。

ふくろうのおじさんが語るエゾオオカミの悲しい物語

「エゾオオカミ物語」は、冬の夜、ふくろうのおじさんのもとへモモンガたちがお話を聞きに集まってくるところから始まります。月明かりの下でふくろうのおじさんが語ったのは、かつて北海道に生きていたエゾオオカミのことでした。昔、北海道には、たくさんのエゾオオカミがいたのです。

オオカミたちは、北の大地で子育てをし、群れで協力し合い、狩りをして生きてきました。オオカミの主な獲物となるのが、エゾシカです。オオカミに捕食されるということは残酷なことのように思えますが、それによってエゾシカは数が増え過ぎるのを防いでいました。それは自然界のバランスを保つために非常に重要なことなのです。シカの数がコントロールされることによって、シカのエサとなる草や葉も減り過ぎることはなかったからです。古くから北海道に暮らし、動物たちと共存してきたアイヌの人たちは、それを理解していたのでしょう。必要以上に自然に手出ししなかったのです。

自然に手を加えてしまったのは、開拓のために内地からやって来た人間たちでした。馬を守るためにオオカミは殺され、ついには姿を消してしまいます。オオカミがいなくなったことで、自然界の均衡が崩れ、エゾシカが大繁殖。すると、畑を荒らすので、今度はエゾシカに怒りの矛先を向けるのです。人間たちはエゾシカを「悪者」にしている、でも、そうしたのは、誰?……ふくろうのおじさんの言葉が心に刺さります。「オオカミの遠ぼえは、もうきこえない。」という一文には、涙があふれそうになりました。

ふくろうのおじさんが伝えたかったこと

ふくろうのおじさんは、かつてエゾオオカミが北海道に生きていたことを語ります。そして、たくさんいたオオカミが、絶滅してしまったことを。遠い昔のことではありません。100年前までは、エゾオオカミたちは確かに生きていたのです。

オオカミたちが姿を消した、その原因が人間であることは、絵本を読み進めていくとわかります。でも「人間が悪いことをした」と、非難してはいません。なぜ?どうして?と、絵本は、答えを示さず、私たちに問いかけます。絵本を開いた人自身が、考えるよう促しているのかも知れません。絵本を閉じたらおしまい、ではなく、そこから本当の答え探しが始まるのでしょう。

北海道で何が起こったのか、絵本には実際に起きたことが書かれていますが、ふくろうの口を通して語られることで、優しくやわらかく伝わってきます。だからこそ、静かな悲しみが、胸にこみ上げてくるのです。

エゾオオカミに想いをはせて

ふくろうのおじさんが語っているのは、冬の夜。冷たく厳しい北海道の雪景色に、月が美しく輝いています。

ふくろうのおじさんの話にじっと耳を傾けているモモンガたちが、身を寄せ合って熱心に話を聞く姿は、とてもかわいらくほのぼのと描かれています。でも、語られているのは、とても重い話です。静けさの中に、ふくろうの声が響きます。

ふくろうのおじさんは北海道に生息するシマフクロウだそうです。実は、このシマフクロウも、環境破壊によって絶滅の危機にあるのだとか。

失ってしまったものは、元には戻せません。絶滅したエゾオオカミたちは、もう戻ってこないのです。私たちは、何をしたらよいのでしょうか?何をしたらいけないのでしょうか?エゾオオカミたちと互いに尊敬し合いながら、ともに暮らしてきたアイヌの人たちの生き方に、ヒントがあるのかも知れません。アイヌの人たちとエゾオオカミは、狭い山道で出会うと、道を譲り合うこともあったと、絵本には書かれています。

表紙に描かれた力強いオオカミの眼差しは、絵本を手にしたひとりひとりに何かを訴えかけているようです。

おとなが読んでも深く考えさせられる「エゾオオカミ物語」。お子さんへの読み聞かせにも、おすすめです。絵本を読んだ後は、感じたことを親子で話し合ってみてはいかがでしょうか。

エゾオオカミ物語 (C) あべ弘士 講談社

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